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1 ~アイスホッケーアジアリーグのプレーオフにおける勝因~ 0902587b 桑田佳明 要旨 この論文の目的は、アイスホッケーアジアリーグのプレーオフにおける勝因 は何であるのかを実証的に分析することである。アジアリーグプレーオフの各 試合から得られた「ゴール数」、「シュート数」、「被シュート数」、「ペナルティ ー時間」、「パワープレーでの得点」、「キルプレーでの得点」、「全ゴール数に対 するパワープレーでの得点の割合」、「ゴールキーパーのセーブ率」という 8 の要因が試合にどのような影響を与えているのかを分析した。その結果、試合 の勝敗に影響を与えているのは「ゴール数」、「被シュート数」、「ペナルティー 時間」、「ゴールキーパーのセーブ率」の 4 つの要因であることが分かった。 1はじめに この論文の目的は、大学アイスホッケーのリーグ戦と多くの共通点を持つア イスホッケーアジアリーグのプレーオフにおける勝敗の要因を明らかにし、そ の結果を神戸大学アイスホッケー部での指導に役立てることである。また、他 のアイスホッケー指導者にもこの結果が役に立つことを望む。 アイスホッケーはゴールキーパーを除く 5 人のプレーヤーがリンク上でプレ ーするスポーツだが、プレーオフのような両チームの実力が均衡しているアイ スホッケーの試合においては、プレーヤーの人数が等しい 5 5 の状態では得 点のチャンスを作ることが難しい。そのような状況の試合において勝敗に影響 を与える要因が何であるのかを分析するのが本稿の目的である。

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~アイスホッケーアジアリーグのプレーオフにおける勝因~

0902587b 桑田佳明

要旨

この論文の目的は、アイスホッケーアジアリーグのプレーオフにおける勝因

は何であるのかを実証的に分析することである。アジアリーグプレーオフの各

試合から得られた「ゴール数」、「シュート数」、「被シュート数」、「ペナルティ

ー時間」、「パワープレーでの得点」、「キルプレーでの得点」、「全ゴール数に対

するパワープレーでの得点の割合」、「ゴールキーパーのセーブ率」という 8 つ

の要因が試合にどのような影響を与えているのかを分析した。その結果、試合

の勝敗に影響を与えているのは「ゴール数」、「被シュート数」、「ペナルティー

時間」、「ゴールキーパーのセーブ率」の 4 つの要因であることが分かった。

1はじめに

この論文の目的は、大学アイスホッケーのリーグ戦と多くの共通点を持つア

イスホッケーアジアリーグのプレーオフにおける勝敗の要因を明らかにし、そ

の結果を神戸大学アイスホッケー部での指導に役立てることである。また、他

のアイスホッケー指導者にもこの結果が役に立つことを望む。

アイスホッケーはゴールキーパーを除く 5 人のプレーヤーがリンク上でプレ

ーするスポーツだが、プレーオフのような両チームの実力が均衡しているアイ

スホッケーの試合においては、プレーヤーの人数が等しい 5 対 5 の状態では得

点のチャンスを作ることが難しい。そのような状況の試合において勝敗に影響

を与える要因が何であるのかを分析するのが本稿の目的である。

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分析する要因は、「ゴール数」、「シュート数」、「被シュート数」、「ペナルティ

ー時間」、「パワープレーでの得点」、「キルプレーでの得点」、「全ゴール数に対

するパワープレーでの得点の割合」、「ゴールキーパーのセーブ率」の 8 つであ

り、これらの要因が試合の勝敗にどのような影響を与えるのかを分析する。ま

た、これら 8 つの変数はアイスホッケーアジアリーグのホームページに掲載さ

れているプレーオフ各試合のスコアシートから収集した。

分析の手法は、まず先に述べた 8 つの変数を勝ちチームと負けチームに分類

し、平均値検定を行うことによって、勝ちチームと負けチームで差のある変数

が何であるかを明らかにし、勝ちチーム・負けチームそれぞれの特徴を明らか

にする。その後 8 つの変数を説明変数とし,勝ち・負けを被説明変数として回

帰分析することによって実際にそれらの変数が試合の勝敗に影響を与えている

のかを明らかにする。

試合に勝つためにはやはりいかに多く得点をするかが重要であるが、先程も

述べたように、アジアリーグのプレーオフのような大学の試合よりもレベルが

高く、実力の均衡している試合においては、プレーヤーの人数が 5 対 5 のイー

ブンの状況では中々得点のチャンスが作れない。そのため得点をするために

も重要であるのはパワープレーである。パワープレーとは相手選手がペナルテ

ィーで一時的に退場し、自チームが数的有利の状態でプレーを行うことである。

パワープレー中は数的有利のためにほぼ攻め続けることができるので,得点を

するためにいかにこのチャンスを活かすかが重要になってくる。したがって今

回の分析で用いた変数の中で試合の勝敗に影響を与えると考えられる変数は

「パワープレーでの得点(PPGF)」と「全ゴール数に対するパワープレーでの

得点の割合(PPGF/G)」であると予想する。

そして、実際に分析を行った結果、平均値検定から、「ゴール数」、「ペナルテ

ィー時間」、「パワープレーでの得点」、「ゴールキーパーのセーブ率」の 4 つの

変数が勝ちチームと負けチームで差がある変数であり、勝ちチームほど「ゴー

ル数」が多く、「ペナルティー時間」が短く、「パワープレーでの得点」が多く、

「ゴールキーパーのセーブ率」が高いことが分かった。

次に、回帰分析の結果、実際に試合の勝敗に影響を与えているのは、「ゴール

数」、「被シュート数」、「ペナルティー時間」、「ゴールキーパーのセーブ率」の

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4 つの変数であることが分かり、試合に勝つためには、「ゴール数」を増やし、

「被シュート数」「ペナルティー時間」を減らし、「ゴールキーパーのセーブ率」

を高めることが必要であると分かった。

これらの結果から試合に勝つためには一見パワープレーでの攻めが重要であ

るかのように見えるが、実際には、いかに相手チームにパワープレーを与えず、

守りの時間を減らすかという守りの面が重要であるということが分かった。

2背景情報

2-1 アイスホッケーとは

2-1-1 歴史

分析の前に、まずアイスホッケーというスポーツに関して説明を行う。アイ

スホッケーの起源に関しては数多くの説が存在し、発祥地として名乗りを上げ

ている国々も世界各地におよんでいるため、どれが本当の起源であるかはわか

らない。日本アイスホッケー連盟のホームページによると、その中でも有名な

ものでは、16 世紀のオランダの絵画に描かれている、市民が凍結した運河の上

で行っているスポーツの光景が、ホッケーの起源ではないかという説や、1763

年にフランスからカナダ領土を勝ち取ったイギリス人兵士達が、カナダの長い

冬の慰みに始めたと伝えられる、フィールドホッケーとノヴァスコシアの原住

民が行っていた競技(ラクロス)を組み合わせ、凍結した河川、湖、池などで

行っていたスポーツが起源という説もある。

そして、ルールが定められたのは 1879 年、カナダのモントリオールにある

マックギル大学の学生らがフィールドホッケーとラグビーを組み合わせた競技

ルールを考案したとされる。その後北米大陸で発達したアイスホッケーはヨー

ロッパへと広がり、1908 年スイスにて国際アイスホッケー連盟(IIHF)が設立

された。

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2-1-2 概要

アイスホッケーは、スケートリンク上で行うチームスポーツ競技である。各

チームゴールキーパー1 人、フォワード3人、ディフェンス2人がリンクの中

で、スティックを用いて硬質ゴムでできたパックを打ち合い、相手方のゴール

に入れることでその得点を競うゲームである。フォワード 3 人とディフェンス

2 人の組み合わせをセットやラインと呼び、ベンチにはプレーヤーのセット 4

組とゴールキーパー2 人が入れる。また、どのような状況でゴールをしたとし

ても1ゴール1点であり、バスケットボールの3ポイントシュートのようなも

のは存在しない。

2-1-3 特徴

ボディチェッキング

アイスホッケーの 大の特徴かつ見所なのが、激しいボディチェッキングで

ある。アイスホッケーは直接のコンタクトが認められている身体的妨害ありの

スポーツであるため、いかにボディチェックを行い、相手に好きなプレーをさ

せずに自分たちの流れを作るかが重要なのである。しかし、直接相手の体にぶ

つかることができるため、時には乱闘に発展することもあり、そのためアイス

ホッケーは『氷上の格闘技』と呼ばれている。

ペナルティー

そして激しいボディチェッキングと並ぶアイスホッケーの大きな特徴がペナ

ルティーのシステムである。

ペナルティーを犯した選手は一時的にリンク外のペナルティーボックスに退

場させられ、その間代替選手の入場が認められないため、ペナルティーを犯し

た選手のチームは一時的に人数が少ない状態でプレーを行わなければならない。

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この自チームの選手がペナルティーで退場し人数が少ない状態でプレーを行う

ことを「キルプレー」と呼び、逆に相手チームの選手がペナルティーで退場し

自チームの人数が多い状態でプレーを行うことを「パワープレー」と呼ぶ。

しかし、一定の時間が経過するとペナルティーを犯した選手もまたリンクに

戻りプレーを行うことができるので、このように一時的に退場してまた戻ると

いうペナルティーのシステムが、サッカーやバスケットボールなどのスポーツ

との大きな違いであり、アイスホッケーの大きな特徴である。

日本アイスホッケー連盟ホームページによると、ペナルティーにはスティッ

クで相手をひっかける「フッキング」やスティックのブレードを肩より上に上

げたりする「ハイスティック」、相手の腕や体、スティックを手でつかんだりし

て妨害した場合の「ホールディング」、他にも「エルボーイング」、 「チャージ

ング」「ボーディング」など様々な種類があり、そのペナルティーの重さによっ

て以下のペナルティーに分類され退場時間が異なる。試合の中で一番多くなさ

れる一般的なペナルティーはマイナーペナルティーに分類され2分間の退場で

ある。他にもダブルマイナーペナルティーは4分間、メジャーペナルティーは

5分間、ミスコンダクトペナルティーは10分間の退場となり、さらにゲーム

ミスコンダクトペナルティーというものもありこのペナルティーを犯してしま

うと残り時間全て退場となってしまう。

基本的に悪質なペナルティーほど退場時間が長くなっており、これは激しく

なりがちなアイスホッケーの試合が荒れ過ぎないように試合をコントロールす

るためである。そのためレフェリーの働きが重要であり、試合が荒れる前にペ

ナルティーを取る必要がある。

そして、ペナルティーを犯した選手が退場している間の代替選手の出場であ

るが、マイナーペナルティー、ダブルマイナーペナルティー、メジャーペナル

ティーは代替選手の出場は許されず、ミスコンダクトペナルティーとゲームミ

スコンダクトペナルティーの場合は代替選手の出場が許される。

しかし、どんなに退場選手が出ても、ゴールキーパー以外に 3 人以上の選手

が同時に退場になることはなく、同じチーム内で 3 人以上の退場者を出した場

合、 初に起きたペナルティーから順番に消化して、 初の 1 名のペナルティ

ーが終わった時点で、未消化のペナルティーが適用開始となる。

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また、ゴールキーパーのペナルティーに関して、ゴールキーパーにマイナー

ペナルティー、ダブルマイナーペナルティー、メジャーペナルティー、ミスコ

ンダクトペナルティーが科せられた場合は、キャプテンがリンク上の他のプレ

ーヤーを指名して、そのプレーヤーにペナルティーを代替させることができる。

そしてメジャーペナルティーを 2 度科せられた場合は、ゲームミスコンダクト

ペナルティーとなり、この場合サブゴールキーパーと交代になる。

アイスホッケーはゴールキーパーを除いたプレーヤーが5人しかいないため、

一番退場時間の短いマイナーペナルティーで2分間の退場であっても戦力に大

きな影響を与える。そのためペナルティーを犯したチームはピンチとなり、逆

に相手チームは大きなチャンスとなる。

ペナルティーは本稿の分析において重要な要素となるので、以下ではこのペ

ナルティーに重点を置いて分析を行う。

ゴールキーパー(Goal Keeper)の重要性

アイスホッケー以外にもサッカー、フットサル、ハンドボール、ラクロス、

水球など多くの球技においてゴールキーパーというポジションが存在する。そ

の中でもアイスホッケーのゴールキーパーは特に重要である。たとえば表1に

は宮崎晃行(2009)の論文に示されていた各球技のゴールキーパーのセーブ率

のデータが示されている。

表1 各球技のGKの比較

競技 ゴールマウスの面積 トップリーグの平均セーブ率

サッカー 7.32m×2.44m=17.86 ㎡ 69%

ハンドボール 3.00m×2.00m=6.00 ㎡ 35%

ラクロス 1.83m×1.83m=3.35 ㎡ 45%

アイスホッケー 1.83m×1.54m=2.82 ㎡ 91%

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この表から分かるように,アイスホッケーのゴールキーパーのセーブ率は

91%であり,次に高いサッカーの 69%を大いに上回っており,他のスポーツに

比べて非常に高いセーブ率を誇っている。つまり、平均的にゴールキーパーの

セーブ率が高いアイスホッケーにおいて、他チームのゴールキーパーよりセー

ブ率が低いということは致命的な弱点となる。よって、アイスホッケーにおけ

るゴールキーパーの重要性は非常に高い。

その他の特徴

他にも、アイスホッケーには様々な特徴がある。まず、体力消費が激しいた

め選手交代が自由であり、試合中に約1分弱の間隔で選手が次々に交代してプ

レーを行い、基本的にはセットごとで交代する。

また、アイスホッケーではゴール裏でもプレーが出来る。そのため、ゴール

キーパーは前からのシュートだけでなく後ろからのシュートやパスなども警戒

し防ぐ必要がある。

そして、リンクは壁で囲われているのでその壁を使ったプレーを行うことが

できる。たとえば、壁の跳ね返りを利用したパスや、壁に沿わせるように出す

パスなどができる。

後に、試合開始時やプレー再開時はフェイスオフと呼ばれる 1 対 1 で対峙

している両チームの 2 人のプレーヤーの間にレフェリーがパックを投入する方

法で行うことが特徴として挙げられる。

2-2 アジアリーグ

2-2-1 概要

本稿で分析の対象としているアジアリーグについて説明する。

アジアリーグ公式ホームページによると、アイスホッケーアジアリーグは、

リーグ参加国地域におけるアイスホッケーの発展および国際競技力の向上と民

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族・文化・経済の交流を促進し、参加国間の相互理解を深めることを理念とし、

『世界トップレベルの選手を輩出し、世界トップレベルの選手が活躍するリー

グ』の創設・北米、ヨーロッパに肩を並べるリーグの創設・オリンピックでの

メダル獲得を目標に作られたリーグである。

そして、「世界トップレベルのアイスホッケーに飛躍する」、「常にフェアプレ

ー&リスペクト精神に徹し、すべてのスポーツマンの目標となる」、「常に魅力

的な試合を行うことで、参加国地域の人々に夢と感動を与える」、「参加国地域

の人々にアイスホッケーを通じ、スポーツのたのしさとおもしろさを理解して

いただくため、選手、指導者が地域の人々と交流を深める努力をする」という

4 つの活動方針を掲げ、現在は日本、韓国、中国の 3 カ国が参加している。

2-2-2 日本リーグ

ここで、アジアリーグがあるなら日本独自のリーグもあるのではないかとい

う疑問が生じるだろう。そして、その疑問の通り元々日本には国内におけるト

ップリーグである日本アイスホッケーリーグ(日本リーグ)が存在した。

日本リーグは 1966 年に 5 チーム(西武鉄道、王子製紙、古河電工、岩倉組、

福徳相互銀行)で発足した。その後、1972 年に福徳相互銀行は廃部したが、西

武鉄道から国土計画(後のコクド)が分割することでチーム数は維持された。

1974 年に十條製紙(現在の日本製紙クレインズ)が加盟し 6 チームになった。

1979 年に岩倉組が廃部となるが、雪印がチームを引き継ぐことでチーム数は維

持されてきた。しかし、1999 年には古河電工の廃部を受けて、クラブチームの

日光アイスバックスが設立、2001 年には雪印が廃部になるが、クラブチーム札

幌ポラリスが引き継いだものの 1 年で休部となり、日本リーグは 5 チーム体制

にかわる。さらに 2003 年には西武鉄道が廃部になりコクドに一本化されるこ

とでチーム数は 4 チームへと縮小した。そして、このようにチーム数が減少し、

日本のみでのリーグの維持が困難になったため、中国、韓国のチームとともに

アジアリーグを立ち上げるに至った。

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2-2-3 アジアリーグのチーム変遷

ア ジ ア リ ー グ 発 足 か ら 現 在 に 至 る ま で の チ ー ム 変 遷 を 説 明 す る 。 以 下

Wikipedia 参照。

アジアリーグは 2003-2004 年シーズンからスタートした。参加チームは、日

本から「日本製紙クレインズ」(北海道・釧路市)、「王子製紙」(北海道・苫小

牧市)、「コクド」(東京都・西東京市)、「日光アイスバックス」(栃木県・日光

市)の 4 チームに韓国の「ハルラウィニア」(ソウル特別市)を加えた 5 チーム

であった。ただし、この年度のみ日本は先に述べた日本アイスホッケーリーグ

(日本リーグ)との並行開催という形をとった。

第 2 回の 2004-2005 年シーズン以後は、日本リーグが休止され日本のチーム

が参加するリーグはアジアリーグのみとなり、試合の開催時期も 9 月から翌年

3 月の半年間の長期戦として一新された。そして、「チチハル」(中国)、「ハル

ビン」(中国)、「ゴールデンアムール」(ロシア)の 3 チームが新たにリーグに

加入し、ハルラウィニアが「アニャンハルラウィニア」に改称した。

2005-2006 年シーズンは、昨シーズンよりアジアリーグに参加していたロシ

アのゴールデンアムールが撤退し、「カンウォンランド」(韓国・春川)と北欧

国籍の若手選手を中心とした「ノルディック・バイキングス」(中国・北京)が

参入し、9 チームになった。また、日光アイスバックスが栃木県日光市に加え

て兵庫県神戸市を新たに本拠地とするダブルフランチャイズ制を採用し、チー

ム名を日光アイスバックスから「日光神戸アイスバックス」と改め、アニャン

ハルラウィニアも「アニャンハルラ」へと改称した。

2006-2007 年シーズンは、ノルディック・バイキングスが撤退し、8 チームと

なり、ハルビンは「浩沙」、チチハルは「長春富奥」に、コクドは「SEIBU プリ

ンスラビッツ」に改称した。

2007-2008 年シーズンは、長春富奥が撤退し、中国のチームが浩沙のみの参

加となり、全体のチーム数は 7 チームとなった。浩沙は、長春富奥を吸収し、

「中国浩沙」と改称したがその後、「中国シャークス」に再改称した。日光神戸

アイスバックスは神戸市とのダブルフランチャイズ制を解消し、「日光アイスバ

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ックス」に戻り、カンウォンランドが「High1 アイスホッケーチーム」と改称

した。

2008-2009 年シーズンは、チーム数に変動はなく、王子製紙がチーム名を「王

子イーグルス」に改称し、中国シャークスが日本語表記を「チャイナシャーク

ス」に変更した。

2009-2010 年シーズンは、SEIBU プリンスラビッツが撤退したが「東北フリー

ブレイズ」(福島県郡山市・青森県八戸市)が新規参入したためチーム数に変動

はなく、チャイナシャークスが「チャイナドラゴン」に改称した。

2010-2011 年シーズンから 2012-2013 年シーズンの 3 年間はチーム数・チー

ム名ともに変更はなかった。

そして 2013-2014 年シーズンでは、デミョンサンムという韓国の軍隊のチー

ムが新たに参戦し、現在は、日本から「日光アイスバックス」、「日本製紙クレ

インズ」、「王子イーグルス」、「東北フリーブレイズ」の 4 チーム、韓国から「ア

ニャンハルラ」、「デミョンサンム」、「High1 アイスホッケーチーム」の 3 チー

ム、中国から「チャイナドラゴン」の 1 チーム、合計 8 チームでリーグを戦っ

ている

2-2-4 外国人枠

アジアリーグ公式ホームページによると、各チームには外国人枠と呼ばれる

ものがあり、チームに加入させることができる外国人の人数が決まっている。

人数は、各チーム 3 名まで。また日本、韓国、中国国籍保有選手は、リーグ加

盟のいずれかのチームに登録する場合に、外国籍選手枠外での登録をすること

ができる。

2013-2014 年シーズン現在、韓国の軍人のみでチーム編成されているデミョ

ンサンムを除く 7 チーム全てに外国人選手が所属している。そのうちアイスホ

ッケーリーグ 高峰の NHL(National Hockey League)出身の選手はおらず、

一つ下のマイナーリーグである AHL(American Hockey League)出身の選手

が 6 人、さらに一つ下の ECHL(East Coast Hockey League)出身の選手が 1

人である。

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2-2-5 アジアリーグの現状

北米で絶大な人気を誇るアイスホッケーリーグ 高峰の NHL では約2万人の

観客が収容できるリンクがほぼ毎試合満員近くになるのに対し、アジアリーグ

では、観客の収容人数が NHL に比べてかなり少ないリンクで試合を行っても満

員にならず、集客力は小さい。そのためチケットの売上不振でリーグを撤退し

ていったチームも少なくない。

そして、選手のレベルをまず個人で見た場合、過去に日本人で NHL にドラフ

トされたのが 2 人で、NHL 出場経験があるのは現在日光アイスバックスに所属

する GK 福藤豊選手ただ一人であり、2013 年現在において、NHL で活躍している

日本人選手は一人もおらず、現時点で、日本のトップクラスのプレーヤーでも

NHL で通用しないくらい大きなレベルの差があると言える。NHL の一つ下のマイ

ナーリーグである AHL でも出場経験のある日本人も福藤選手だけであるので

NHL の一つ下でもレギュラーとして活躍するのは難しく、さらにもう一つ下の

ECHL でプレーした日本人は何人かいるというレベルである。

韓国人と中国人選手に関しては詳しい資料がなかったため、NHL に出場した

ことのある詳しい人数は分からなかったが、日本人とそれほどレベルは変わら

ないと考えられる。

また、男子の世界ランキングを国別に見た場合、国際アイスホッケー連盟公

式ホームページによると、2013 年現在 IIHF(国際アイスホッケー連盟)に加盟

している 48 カ国中、日本が 21 位、韓国が 25 位、中国が 38 位であり、3 カ国

とも順位は決して高いとは言えず、むしろ低いと言える。

2-2-6 アジアリーグの課題

このような現状において、アイスホッケーのルールというホームページでは、

以下のことを今後のアジアリーグの課題としている。

アイスホッケーはアジアのレベルがまだまだ低いこともあり、このアジアリ

ーグが今後どのように発展していくかがアジア全体のレベルアップにも繋がっ

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てくる。本来、プロスポーツ競技はスポンサーが広告宣伝の手法としてチーム

やチームの代表選手を通じて会社や商品の宣伝を行う営業的要素が強い。しか

し、アイスホッケーアジアリーグにおいてはプロ野球などと違いスポーツの活

性化や認知度アップを目的として企業が赤字を出しながらも継続しているチー

ムも多い。現在は数々の企業があらゆるスポーツにおいて実業団チームを廃部

していく流れにあるので、今後数年間は、アイスホッケーの「チーム数」を維

持できるかどうかが課題でありポイントとなるかもしれない。

しかし、日本国内におけるアイスホッケーの認知度は高いとは言えず、アイ

スホッケーという名前は知っていても試合は観たことがないという人が大多数

である。実際に自分自身もアイスホッケーという競技は知っていたが初めて試

合を観たのは大学のアイスホッケー部に入部してからである。

また人気に関しても、アイスホッケー経験者やその関係者の間ではある程度

の人気があるが、アイスホッケー関係者ではない一般の人からの人気はほぼな

いと言っても過言ではないほどである。したがってこのように日本国内におけ

る認知度も人気も低い現状のままアジアリーグを発展させることは非常に難し

い課題である。

2-2-7 アジアリーグの今後

今後アジアリーグ、そしてアイスホッケーというスポーツ自体を盛り上げ、

先に述べた課題を達成するために以下のことが必要であると私は考える。

アイスホッケーのメディアへの露出に関して、アイスホッケー女子日本代表

のソチ五輪出場が決まり、女子のメディアへの露出は増えたが、増えたと言っ

ても他のメジャーな女子スポーツと比べると露出頻度はまだまだ少なく、ソチ

五輪終了後は以前のようにメディアへの露出がほとんどなくなってしまう可能

性がある。男子に至ってはソチ五輪の予選で敗れたことでメディアに取り上げ

られることはまったくないという現状である。

そのため、今後、アジアリーグを発展させるにはまずアイスホッケーの日本

国内での認知度、人気を上げることで競技人口を増やし、個人のレベルアップ

を目指さなければならないと考える。個人のレベルの上昇はチームのレベルの

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上昇にも繋がり、その結果五輪出場や世界選手権での好成績を収めることがで

きればさらにアイスホッケーの認知度、人気が上がり、これが良い方向に循環

すれば日本国内におけるアイスホッケーの発展、さらにはアジアリーグの発展

に繋がるのではないかと考える。

2-3 アジアリーグの試合方式

2-3-1 概要

では、実際にアジアリーグの試合がどのように行われ、本稿で分析の対象と

しているプレーオフに進出するチームを決定しているのかを説明する。

アジアリーグ公式ホームページによると、レギュラーリーグではホーム&ア

ウェイ方式を基本とし、8 チーム計 6 回戦総当たり、全 168 試合(1 チーム 42

試合)を行い、レギュラーリーグ 4 位までのチームがプレーオフに進出する。

そして、セミファイナルとして 1 位と 4 位、2 位と 3 位が 5 試合 3 勝先勝方式

で対戦し、ファイナルとしてセミファイナルの勝者同士が 5 試合 3 勝先勝方式

で対戦し、優勝を決定する。

また、アジアリーグは NHL には存在する下位リーグも存在せず、地区毎のブ

ロック分けもされていない。そのためリーグ入れ替え戦のようなものはなく、

単純にアジアリーグ内の 8 チームで順位を争うだけである。

2- 3- 2 勝敗決定方式

レギュラーリーグは第 3 ピリオド終了時同点の場合、2 分間のカウントダウ

ンの後、サドンビクトリー方式によるオーバータイム 5 分間を行う。この時の

プレーヤーの人数は各 4 人ずつである。それでも勝敗がつかない場合は、ゲー

ムウィニングショットを行う。ゲームウィニングショットとは、プレーヤーが

相手ゴールキーパーと1対1でシュートを行うサッカーで言うペナルティーキ

ックのようなものである。

プレーオフでは第 3 ピリオド終了時同点の場合、15 分間の休憩・整氷後にサ

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ドンビクトリー方式による 20 分間の延長戦をプレーヤー5 対 5 にて行う。20

分間の延長戦を終えても決着しない場合は、決着がつくまでこれを繰り返し行

う。

2- 3- 3 順位決定

まずレギュラーリーグの順位は以下の表2に則り勝ち点制で、合計勝ち点の

多い順で決定する。

表2 勝ち点

60 分(第 3 ピリオドまで)勝ち 3 点

オーバータイム(OT)勝ち 2 点

ゲームウィニングショット(GWS)勝

ち 2 点

ゲームウィニングショット(GWS)負

け 1 点

オーバータイム(OT)負け 1 点

60 分(第 3 ピリオドまで)負け 0 点

表 2 から、規定の第 3 ピリオドまでで決着が付かずオーバータイムやゲーム

ウィニングショットなどの延長戦にもつれ込んだ場合、負けたチームも勝ち点

を獲得できることが特徴的であるといえる。

2- 4 アジアリーグのレギュラーリーグとプレーオフの試合内容の違い

2- 4- 1 ペナルティー数

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本稿はアジアリーグのプレーオフを分析の対象としている。そのため、レギ

ュラーリーグとプレーオフで試合内容にどのような違いがあるのかを明確にし、

分析の結果を考察する際の参考にする。

そこで、特に本稿で注目しているペナルティーに関してレギュラーリーグと

プレーオフで試合内容に違いがあるのかを分析する。分析方法は、レギュラー

リーグとプレーオフ毎に各チームのトータルペナルティー時間を試合数で割り、

1 試合平均のペナルティー時間を計算し、その長短を比較する。

データはアジアリーグのホームページに掲載されている 2010-2011 年シーズ

ンから 2012-2013 年シーズンの 3 年間の優勝・準優勝チームのデータを使用す

る。

その結果が以下の表 3・1、3・2 である。

表 3・1 レギュラーリーグ

試 合

トータルペナル

ティー時間

1 試合平均ペナル

ティー時間

2010-2011 年

シーズン

東 北 フ リ

ー ブ レ イ

42 試

642 分 15.2 分

ア ニ ャ ン

ハルラ

42 試

409 分 9.7 分

2011-2012 年

シーズン

王 子 イ ー

グルス

42 試

459 分 10.9 分

日 光 ア イ

ス バ ッ ク

42 試

534 分 12.7 分

2012-2013 年

シーズン

東 北 フ リ

ー ブ レ イ

42 試

628 分 14.9 分

準 王 子 イ ー 42 試 569 分 13.5 分

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グルス 合

トータル 12.8 分

2010-2011 年シーズンは東日本大震災の影響のため、東北フリーブレイズ、

アニャンハルラ両チームを優勝とした。

表 3・2 プレーオフ

試 合

トータルペナル

ティー時間

1 試合平均ペナル

ティー時間

2010-2011 年

シーズン

東 北 フ リ

ー ブ レ イ

5 試

126 分 25.2 分

ア ニ ャ ン

ハルラ

4 試

42 分 10.5 分

2011-2012 年

シーズン

王 子 イ ー

グルス

7 試

111 分 15.8 分

日 光 ア イ

ス バ ッ ク

9 試

130 分 14.4 分

2012-2013 年

シーズン

東 北 フ リ

ー ブ レ イ

8 試

88 分 11 分

王 子 イ ー

グルス

7 試

90 分 12.8 分

トータル 14.9 分

表 3・1、3・2 からわかるように 2010-2011 年シーズンから 2012-2013 年シ

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ーズンの 3 年間の優勝・準優勝チームの 1 試合の平均ペナルティー時間は、レ

ギュラーリーグが 12.8 分、プレーオフが 14.9 分であることがわかった。よっ

てペナルティー時間はレギュラーリーグとプレーオフで大きな差はないといえ

る。

2- 4- 2 ペナルティーの種類

次に、レギュラーリーグとプレーオフにおいて、ゲームミスコンダクトペナ

ルティーやマッチペナルティーなどの悪質なペナルティーがあったかどうかを

先程と同じく 2010-2011 年シーズンから 2012-2013 年シーズンの 3 年間で調べ

た。その結果、レギュラーリーグよりもプレーオフの方がゲームミスコンダク

トペナルティーやマッチペナルティーなどの悪質なペナルティーが少ないこと

が分かった。

これは、短期決戦であるプレーオフにおいて主力選手がゲームミスコンダク

トペナルティーやマッチペナルティーを犯し、試合の残り時間全て退場になっ

てしまうとチームの戦力が大きく下がってしまうため、悪質なペナルティーを

犯さないように選手がプレーを行っているためであると考えられる。

マッチペナルティーはゲームミスコンダクトペナルティーよりも重いペナル

ティーであり、その試合の残り時間全て退場になるだけではなく、その後の試

合も出場停止になる。これはアイスホッケーにおける も重いペナルティーで、

乱闘の 初の当事者やレフェリーに対する暴力行為などの悪質な反則に科され

る。

3データ

3- 1 データ

この論文では、アジアリーグの公式ホームページから得られる 2008-2009 年

シーズンから 2012-2013 年シーズンの 5 年間のプレーオフのセミファイナルと

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ファイナルの試合のデータを使用した。

データはオフィシャルゲームシートと呼ばれる用紙に試合中随時記入されて

いるものを使用した。これには、例えば、得点を決めた選手やアシストをした

選手の名前・背番号やペナルティーを犯した選手の名前・背番号などの他に、

今回分析に使用した変数のデータも記入されている。

そして、2008-2009 年シーズンの 20 試合、2009-2010 年シーズンの 13 試合、

2010-2011 年シーズンの 9 試合、2011-2012 年シーズンの 12 試合、2012-2013

年シーズンの 11 試合、計 65 試合を対象とした。

3- 2 変数

本稿の分析で使用した変数の説明とその変数を選んだ理由を説明する。

まず、1 つめの変数は、シュートを打ち実際に得点した「ゴール数(G)」で

ある。これは、アイスホッケーは得点の多さを競うスポーツであり、直接関係

すると考えたため選択した。

2 つめの変数は、「シュート数(SOG:Shot On Goal)」である。これは、ゴ

ールの枠内に飛んだシュート、または枠外でもゴールキーパーが触ったシュー

トのことである。選んだ理由は、得点をするためにはシュートを打たなければ

ならず、得点に直接結びつくと考えたから。

3 つめの変数は、「被シュート数(被 SOG)」である。これは、相手チームに打

たれたシュート数(SOG)であり、得点を防ぐことも試合に勝つためには必要で

あり、相手チームの得点に直接結びつくと考え選択した。

4 つめの変数は、「ペナルティー時間(PIM:Penalties In Minutes)」である。

これは、自チームが犯したペナルティー時間の合計である。ペナルティーは本

稿の分析で重要な要素となると考えており、具体的には、ペナルティー時間が

多いほどその分キルプレーの時間が長くなり、数的不利となるキルプレーの長

さがプレーオフのような短期決戦では重要であると考えたためこれを選択した。

5 つめの変数は、「パワープレー(PP)での得点」である。これは、相手チー

ムの選手がペナルティーで退場し自チームが数的有利な状態(パワープレー)

での得点である。両チームのレベル差があまりないプレーオフにおいて、数的

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有利なパワープレーのチャンスをより活かし得点に結びつけているチームが勝

っているのではないかと考えたためこれを選択した。また、予想ではこの変数

が試合の勝敗に大きく影響するのではないかと考えられる。

6 つめの変数は、「キルプレー(PK)での得点」である。これは、自チームの

選手がペナルティーで退場し自チームが数的不利な状態(キルプレー)での得

点である。キルプレーでの得点はほとんどなかったが、あった場合にそれが試

合の勝敗に影響しているのか気になったためこれを選択した。

7 つめの変数は、「全ゴール数に対するパワープレーでの得点の割合」である。

これは、全得点のうちパワープレーでの得点の割合である。この割合が高いと

いうことはパワープレーのチャンスを活かしているということなのでこの変数

を選択した。また、「パワープレーでの得点」と同様にこの変数も試合の勝敗に

大きく影響するのではないかと予想した。

後に 8 つめの変数は、「ゴールキーパー(GK)のセーブ率」である。これは、

相手チームのシュートをゴールキーパーが防いだ割合である。「ゴールキーパー

のセーブ率=(被シュート数-相手ゴール数)/被シュート数」の数式で求め

た。アイスホッケーのゴールキーパーは前にも述べたように も重要なポジシ

ョンであり、そのゴールキーパーの能力を測る も一般的な指標であるからこ

の変数を選択した。また、アイスホッケーのゴールキーパーは野球で例えると

ピッチャーであり、ゴールキーパーのセーブ率は野球のピッチャーの防御率の

ようなものである。

以上「ゴール数」、「シュート」、「被シュート数」、「ペナルティー時間」、「パ

ワープレーでの得点」、「キルプレーでの得点」、「全ゴール数に対するパワープ

レーでの得点の割合」、「ゴールキーパーのセーブ率」の 8 つの変数を用いて平

均値検定、回帰分析を行う。

3- 3 なぜプレーオフを選んだか

この論文を書くにあたってなぜアジアリーグのレギュラーリーグではなくプ

レーオフの勝敗に影響を与える要因を調べようと考えたかを以下に述べる。

まず、レギュラーリーグよりも対戦チームのレベル差が小さいということが

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プレーオフを選んだ理由である。例えば、2012-2013 年シーズンのレギュラー

リーグ 1 位は王子イーグルスで、勝ち点は 102 であったが、レギュラーリーグ

下位のチャイナドラゴンは勝ち点 2 であった。レギュラーリーグではこれほ

どレベル差があるチームが対戦している試合があるので、そういった試合のデ

ータを用いて分析結果を出したとしてもこの論文の目的である神戸大学アイス

ホッケー部の指導に活かすことができないと考えたのである。なぜなら大学の

アイスホッケーリーグは各チームの実力に沿ってリーグ分けがなされているた

め、同じリーグ内の大学にそれほど大きなレベル差が存在しないのである。そ

の点プレーオフはレギュラーリーグの上位 4 チームしか出場できないので、1

位と 4 位のチームである程度のレベル差はあるかもしれないが、レギュラーリ

ーグ程レベル差はないためプレーオフを選んだ。

次に、レギュラーリーグは試合数が多いということもプレーオフを選んだ理

由の一つである。レギュラーリーグは各チーム 42 試合も行うのである。それに

対し、例えば神戸大学が所属する関西学生アイスホッケーリーグの 1 部 B リー

グの場合、まず同じ 1 部 B リーグに所属する大学 5 チームのリーグ戦を 2 回り

の計 8 試合を行い、その結果、5 位のチームは 2 部リーグの 1 位、4 位のチーム

は 2 部リーグの 2 位のチームとそれぞれ入れ替え戦を 1 試合行う。そして 1 部

B リーグ 1・2 位のチームは 1 部 A リーグの下位 2 チームと入れ替えのリーグ戦

をそれぞれ 3 試合行う。よって 少で 8 試合、 多でも 11 試合しか行わないの

である。よって長い期間で多くの試合を行うアジアリーグのレギュラーリーグ

よりも短期間で試合数の少ないプレーオフの方が目的の達成のために参考にな

ると考えたのである。

そして試合に対するモチベーションが高いということもプレーオフを選んだ

理由である。もちろんレギュラーリーグでは試合に対するモチベーションが低

いという訳ではないが、優勝を決定するためにモチベーションのより高いプレ

ーオフを選んだ。これは学生リーグが先に述べたように試合数が少ないという

ことに加えて、選手がアジアリーグとは違って大学生であるということから説

明できる。大学の部活は 4 年間という限られた時間の中でしかアイスホッケー

をプレーできず、4 年目にして初めてレギュラーとして試合に出場するといっ

た選手も珍しくない。そのため、学生リーグで試合を行うことができるのは人

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生でたった数試合しかないということになるので、当然 1 試合 1 試合のモチベ

ーションは高くなる。よってアジアリーグのレギュラーリーグではなく、より

モチベーションの高いプレーオフを選んだ。

後にプレーオフを選んだ一番大きな理由として、レギュラーリーグ下位の

チームがレギュラーリーグ上位のチームに勝つことがあることが挙げられる。

例えば 2012-2013 年シーズンでは、レギュラーリーグ 2 位であった東北フリー

ブレイズがレギュラーリーグ 1 位の王子イーグルスを破って優勝している。レ

ギュラーリーグは多くの試合を行い順位を付けるので、ある程度実力通りの順

位になると言えるが、プレーオフのような短期決戦では先ほど述べたように下

位のチームが上位のチームに勝つことがしばしばある。このようなことは日本

プロ野球のプレーオフであるクライマックスシリーズでも起こっていることか

らも分かる。学生リーグでは試合数が少ないので、良い成績を収めるためには

いかに実力が上のチームに勝つかが重要になるので、下位のチームが上位のチ

ームに勝つことが起こりやすいプレーオフを選んだ。

4分析方法と結果と考察

4- 1 分析方法

4- 1- 1 平均値検定

以下では、平均値検定、および回帰分析によって分析を行う。まず平均値検

定は t 検定とも呼ばれ、帰無仮説が正しいと仮定した場合に、統計量が t 分布

に従うことを利用する統計学的検定法の総称である。2 組の変数について平均

に有意差があるかどうかの検定などに用いられる統計的仮説検定の一つである。

平均値検定を行うことで、ある変数が同一の母集団からの変数と見なしたとき

に、2つのグループの平均の差がある一定の確率の範囲に入るようなことはめ

ったになく,このような場合は平均に有意差があるとして異なる母集団から取

り出された変数であったと見なせる。

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つまり、変数を勝ちチームと負けチームに分類して平均値検定を行った時に、

その 2 つの平均の差に有意な差があった場合、その変数は勝ちチームと負けチ

ームで差があり、例えばある変数の値が勝ちチームでは高く、負けチームでは

低いといった特徴があるということがわかる。

今回は有意水準 5%で検定を行った。有意水準とは 統計的仮説検定を行う

場合に,帰無仮説を棄却するかどうかを判定する基準のことである。有意水準

を 5%に設定するということは、5%以下の確率でしか発生しない結果が得られ

た場合には、想定した帰無仮説が間違っている可能性が高いと判断して仮説を

棄却する、ということを意味する。

そして、この論文では、平均値検定を行うために Stata というソフトを使用

し、このソフトを使用した際に別所俊一郎の論文を参照した。

4- 1- 2 回帰分析

次に、回帰分析については、朝日新聞、朝日新聞出版、講談社、小学館など

の辞書から、用語を一度に検索できるサイトのコトバンクで「回帰分析」を調

べてみると、回帰分析とは説明変数と被説明変数の関係を回帰式で表し、被説

明変数が説明変数によってどの程度説明できるかを定量的に分析することであ

る、と説明されている。回帰式は、y=ax+b で表され、x が説明変数、y が被説

明変数である。被説明変数とは予測や要因分析を行う変数のことで、説明変数

とは被説明変数に影響を与えると考えられる変数のことである。

この論文では被説明変数を試合の勝ち、負けとし、勝ちの値を 1、負けの値

を 0 とするダミー変数にして回帰分析を行った。また、説明変数は「ゴール数」、

「シュート数」、「被シュート数」、「ペナルティー時間」、「パワープレーでの得

点」、「キルプレーでの得点」、「全ゴール数に対するパワープレーでの得点の割

合」、「ゴールキーパーのセーブ率」の 8 つの変数である。

つまり、被説明変数である試合の勝敗に説明変数である各変数がどれだけ影

響を及ぼしているのかを回帰分析を行って明らかにしようとしたのである。

そしてこの論文では、回帰分析は Statplus というソフトを使用し、まず有意水

準 5%で検定を行い、その後有意水準 10%でも検定を行った。

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4- 2 分析結果と考察

4- 2- 1 平均値検定の結果と考察

平均値検定を行った結果が以下の表 4 である。

表 4 平均値検定の結果

変数 t 値

ゴール数 12.0938

シュート数 1.4272

被シュート数 -1.4272

ペナルティー時間 -2.1052

パワープレーでの得点 4.8263

キルプレーでの得点 0.7044

全ゴール数に対するパワープレーでの得点の割合 0.6673

ゴールキーパーのセーブ率 7.9185

有意水準 5%で検定を行ったので、t 値の絶対値が 2 より大きい時に帰無仮説

が棄却され、勝ちチームと負けチームで有意差のある変数であるといえる。し

たがって、表4から、勝ちチームと負けチームで有意差のある変数は、「ゴール

数」「ペナルティー時間」「パワープレーでの得点」「ゴールキーパーのセーブ率」

の 4 つであることが分かる。

そして、このことから勝ちチームの特徴と負けチームの特徴が以下であると

いえる。

まずは勝ちチームの特徴であるが、勝ちチームの特徴としてまず、ペナルテ

ィーが少ないということが分かる。ペナルティーが少ないということはキルプ

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レーが短いということであり、パワープレーのチャンスを相手チームに与えて

いないということである。

次にパワープレーでの得点が多いことが分かる。このことからプレーオフと

いう実力が均衡した試合においては、勝ちチームほどパワープレーのチャンス

を活かし得点をしていることが分かった。勝ちチームはパワープレーでの戦術

に長けており、より多くの練習を積んでいるためこのような結果になったと考

えられる。

後にゴールキーパーの能力が高いということが分かる。平均値検定で勝ち

チームと負けチームで も顕著な差が現れたのがこのゴールキーパーのセーブ

率であった。勝ちチームと負けチームでそもそも打たれるシュート数が違い、

そのことがセーブ率に影響を与えているという可能性もあるが、それ以上にゴ

ールキーパーの能力がセーブ率に大きく影響している。そのため勝ちチームの

ゴールキーパーは負けチームのゴールキーパーよりも能力が高いと言える。

次に負けチームの特徴であるが、負けチームの特徴としてまず、ペナルティ

ーが多いことが分かる。ペナルティーが多いということは相手にパワープレー

のチャンスを与えていると共に、自ら得点のチャンスを潰していると言える。

実際にキルプレーでの得点は勝ちチーム、負けチーム関係なくほとんどなかっ

たので、得点の多さを競うアイスホッケーにおいてキルプレーにつながるペナ

ルティーの多さは致命的であると言える。

次にパワープレーでの得点が少ないということが分かる。勝ちチームと違い

せっかくのチャンスであるパワープレーを活かしきれず得点に結び付けられて

いないということは、負けチームがパワープレーに習熟していないか勝ちチー

ムがキルプレーの守りに長けているためであると考えられる。

後にゴールキーパーの能力が低いということが分かる。負けチームのゴー

ルキーパーのセーブ率が低い原因として、まず単純にゴールキーパーの能力が

低いということが考えられる。また、基本的に負けチームは勝ちチームよりも

守りの時間が長くなり、ゴールキーパーも短時間に数多くのシュートを打たれ

ることになるので、疲労や集中力の低下によってセーブ率が低下しているので

はないかと考えられる。

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4- 2- 2 回帰分析の結果と考察

有意水準 5%

まず、有意水準 5%での回帰分析の結果は以下の式で表される。

WIN or LOSE =- 3.3742 + 0.1472 * G + 0.0012 * SOG - 0.0132 * 被 SOG -

0.0043 * PIM + 0.0421 * PPGF - 0.0529 * SHGF - 0.0313 * PPGF/G + 4.2692

* GK SAVE

そして、元となった推計結果は表 5 に示されている。

表 5 回帰分析の結果

変数 係数 標 準 誤

t

ゴール数 0.14720 0.02242 6.56582

シュート数 0.00120 0.00341 0.35170

被シュート数 -0.01322 0.00347 -3.81170

ペナルティー時間 -0.00425 0.00228 -1.86270

パワープレーでの得点 0.04213 0.06080 0.69299

キルプレーでの得点 -0.05292 0.09711 -0.54493

全ゴール数に対するパワープレーでの得点

の割合 -0.03126 0.15767 -0.19825

ゴールキーパーのセーブ率 4.26922 0.46365 9.20786

有意水準 5%では、t 値の絶対値が 1.97976 より大きい時に帰無仮説が棄却さ

れ、説明変数である各変数が非説明変数である試合の勝敗に影響を与えている

ということになる。

よって表 5 より有意水準 5%において試合の勝敗に影響を及ぼしている変数

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は、「ゴール数」「被シュート数」「ゴールキーパーのセーブ率」の 3 つであると

いうことが分かる。

なぜこの 3 つの変数が試合の勝敗に影響を与えているのかということを考察

する。

まず、「ゴール数」であるが、アイスホッケーは得点の多さを競う競技である

ため「ゴール数」の多さが試合の勝敗に影響を与えるのは当たり前であるとい

える。

次に、「ゴールキーパーのセーブ率」であるが、t 値の絶対値が一番大きいこ

とから、今回分析した変数の中で も試合の勝敗に影響を与えていたというこ

とが分かる。これは、「ゴールキーパーのセーブ率」が低いほど失点をしやすく

負けに繋がり、セーブ率が高いほど失点しにくくその結果勝ちに繋がるからで

あると考えられる。このことからもやはり前に述べたようにアイスホッケーに

おいてはゴールキーパーというポジションが も重要なポジションであること

が分かる。

後に、「被シュート数」について、「シュート数」は試合の勝敗に影響を与

えないということから、試合に勝つためには自チームがいかに多くシュートを

打つかということよりも、いかに相手チームにシュートを打たせないようにす

るかということが必要であるとわかった。得点するためにはシュートを打たな

ければならないので、相手チームにシュートを打たせず得点の可能性を与えな

いことで試合の勝ちに繋がるのではないかと考える。また、「被シュート数」が

少ないということは、その分ゴールキーパーの疲労軽減・集中力増加などに繋

がり、試合に勝つために も重要な「ゴールキーパーのセーブ率」上昇という

効果ももたらすのではないかと考える。

有意水準 10%

次に、有意水準 10%での分析結果であるが、推計結果も回帰式も同じである。

異なる部分は、帰無仮説を棄却するかどうかの判断をする時の t 値の基準であ

る。有意水準 5%の場合は、t 値の絶対値が 1.97976 より大きい時に帰無仮説を

棄却、つまり各変数が試合の勝敗に影響を与えているということであった。こ

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れに対して有意水準 10%の場合は、t 値の絶対値が 1.65754 より大きい時に帰無

仮説を棄却することになる。

よって、有意水準 10%において試合の勝敗に影響を及ぼしている変数は、有

意水準 5%の時と同じ「ゴール数」「被シュート数」「ゴールキーパーのセーブ

率」の 3 つに「ペナルティー時間」を加えた 4 つの変数であることが分かる。

「ペナルティー時間」は他の 3 つの変数と違って t 値にマイナスが付いてい

るので、少ないほど試合の勝ちに影響するということである。そして「ペナル

ティー時間」について以下の考察を行った。

まず、「ペナルティー時間」が短いほど勝ちに影響しているということは、キ

ルプレーの時間が短いほど勝ちに影響するということである。両チームの実力

が均衡しているプレーオフにおいてはプレーヤーの人数に差がない5対5の状

態で試合の均衡を破ることは難しく、ペナルティーを犯し人数に差ができた状

態の時に攻め・守りの時間やシュート数などの均衡が崩れることが多い。

ペナルティー時間が短くキルプレーの時間が短いほど守りの時間も短く、打

たれるシュート数が少なくなり、ゴールキーパーのセーブ率にも良い影響を与

え、結果として試合の勝ちに影響していると言え、逆にペナルティー時間が長

くキルプレーの時間が長いほど守りの時間が長く、打たれるシュート数が多く

なり、ゴールキーパーのセーブ率に悪い影響を与え、結果として試合の負けに

影響していると言える。

5%水準でも 10%水準でも試合の勝敗に影響を与えるという結果になった

「ゴール数」、「被シュート数」、「ゴールキーパーのセーブ率」は直接得点に結

びつく変数であった。しかし、「ペナルティー時間」はそれら 3 つの変数とは少

し性質が違う。なぜなら、ペナルティー時間は直接は得点に結びつかないから

である。そのため直接得点に結びつく「ゴール数」、「被シュート数」、「ゴール

キーパーのセーブ率」は 5%水準でも試合の勝敗に影響を与えているという結

果になったが、直接は得点に結びつかない「ペナルティー時間」は 10%水準で

は試合の勝敗に影響を与えるが、より厳しい 5%水準では影響を与えていない

という結果になったと考えられる。

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4- 3 平均値検定と回帰分析の結果の関係からわかること

平均値検定と回帰分析の結果、「ゴール数」、「ゴールキーパーのセーブ率」、

「ペナルティー時間」は勝ちチームと負けチームで差があるという結果となり、

かつ試合の勝敗に直接影響を与えているということが分かったが、「パワープレ

ーでの得点」は、勝ちチームと負けチームで差はあったが、直接試合の勝敗に

影響は与えていないということが分かった。

以上の結果から、試合に勝つためには「ゴール数」、「被シュート数」、「ゴー

ルキーパーのセーブ率」、「ペナルティー時間」が重要であると分かった。では、

この結果は、アイスホッケーで勝利する上で、他チームと差別化を図るという

目的に対してどのような意味を持っているのだろうか。

まず、「ゴール数」を増やし「被シュート数」を減らすには戦術が重要である

が、今のサッカーのトップチームの主流がパスサッカーであるように、アイス

ホッケーのトップチームにも時代によって主流となる戦術が存在し、画期的な

戦術を生み出し他のチームと差をつけることは中々難しい。

また、「ゴールキーパーのセーブ率」を上げるためには既存のゴールキーパー

の能力を上げるか、元々能力の高いゴールキーパーを新たに獲得する方法があ

る。しかし現在のゴールキーパーよりも能力の高いゴールキーパーを獲得しよ

うと思っても、日本国内におけるアイスホッケー競技人口はそれほど多くなく、

ただでさえプレーヤーよりも人数の少ないゴールキーパーの中からより能力の

高いゴールキーパーを新しく獲得することは難しい。海外から獲得することも、

今現在アジアリーグに参加国以外の国出身のゴールキーパーがいないことから

難しいと言える。なので、一番確実な方法が既存のゴールキーパーの能力を上

げる方法であるが、一朝一夕に能力が上がるものでもない。

しかし、「ゴール数」、「被シュート数」、「ゴールキーパーのセーブ率」と違っ

て割と簡単に改善できるのが「ペナルティー時間」である。なぜなら意識を変

えることで「ペナルティー時間」は減らせるからである。もちろん試合の中で

ペナルティーを取られても仕方がないプレーや、時には必要なペナルティー(ゴ

ールキーパーとの1対1の状況になるのを防ぐためわざとペナルティーをして

相手プレーヤーを止めることがある。)もあるが、直接のボディコンタクトがあ

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るアイスホッケーの試合では感情的になって無駄なペナルティーをしてしまう

ことも多い。こういった感情的になってやってしまうペナルティーは意識次第

で減らすことができるので、試合に勝つために短期間にかつ簡単に他チームと

差別化を図るにはまず無駄なペナルティーをなくしトータルのペナルティー時

間を短くする必要があると言える。

4- 4 まとめ

当初、「パワープレーでの得点」と「全ゴール数に対するパワープレーでの得

点の割合」が試合の勝敗に影響を与えると予想していたが、回帰分析の結果、

「パワープレーでの得点」と「全ゴール数に対するパワープレーでの得点の割

合」は試合の勝敗に影響を与えていないということが分かった。

そして回帰分析の結果、「被シュート数」、「ペナルティー時間」、「ゴールキー

パーのセーブ率」が試合の勝敗に影響していることが分かった。

また、平均値検定では勝ちチームと負けチームを区別する変数として「パワー

プレーでの得点」があり、勝ちチームほどパワープレーでの得点が多いという

結果となった。

しかし回帰分析の結果、「パワープレーでの得点」は試合の勝敗に影響を与え

ていないという結果が出たので、表面的には勝ちチームはパワープレーのチャ

ンスを活かし得点をしていると言えるが、それが直接試合の勝敗に結びついて

はいないということである。

平均値検定と回帰分析の結果から、アイスホッケーアジアリーグのプレーオ

フの試合では、いかに数的有利であるパワープレーを活かし得点をするかとい

う攻めの面よりも、いかに数的不利となるキルプレーを減らし、相手シュート

数を減らし、ゴールキーパーのセーブ率を上げるかという守りの面が勝つため

には重要であることが分かった。

5おわりに

この論文では、アイスホッケーアジアリーグのプレーオフにおける勝因は何で

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あるのかということを、「ゴール数」、「シュート数」、「被シュート数」、「ペナル

ティー時間」、「パワープレーでの得点」、「キルプレーでの得点」、「全ゴール数

に対するパワープレーでの得点の割合」、「ゴールキーパーのセーブ率」の 8 つ

の変数を平均値検定、回帰分析を行うことで明らかにした。

そして、平均値検定の結果、勝ちチームほど「ゴール数」が多く、「ペナルテ

ィー時間」が短く、「パワープレーでの得点」が多く、「ゴールキーパーのセー

ブ率」が高いことが明らかになり、回帰分析の結果、実際に試合の勝敗に影響

を与えている変数は「ゴール数」、「被シュート数」、「ペナルティー時間」、「ゴ

ールキーパーのセーブ率」の 4 つであることが明らかになった。

今回はアジアリーグのプレーオフに焦点を当てて分析を行ったが、今回の分

析で得られた結果がプレーオフ特有のものであるのかどうかを比較する、レギ

ュラーリーグの試合の勝因は何であるのかという分析が必要である。また、今

回はチーム同士の相性などは考慮せず分析を行ったので、そういった要因を考

慮した分析を行うとより細かな結果が得られるはずである。

また、去年のゼミ生である大木 (2013)は、神戸大学アイスホッケー部の試合

のデータを用いて試合の勝敗要因を分析していた。その結果、「被シュート数」

「パワープレー成功数」「エースの得点の有無」「ゴールキーパーのセーブ率」

という 4 つの変数が試合の勝敗に影響を及ぼしていると分かった。

この結果と、本稿での分析結果から、チームのレベルに関係なく試合に勝つ

ためにまず一番重要なことは、いかに相手チームにシュートを打たせないかと

いうことと、いかにゴールキーパーのセーブ率を上げるかということであるこ

とが分かった。

また、2 つの分析結果の違いとして、神戸大学アイスホッケー部の試合では

攻撃面も守備面も均等に試合結果に影響を及ぼしているという結果であったが、

本稿のアジアリーグプレーオフの試合においては一貫して守備面が試合に影響

を与えているという結果になった。

なので、高いレベルの試合では守備面が良くなければ試合に勝てないという

ことなので、今後神戸大学アイスホッケー部がレベルアップして格上のチーム

に勝つためにはやはり守備面を鍛える必要があると感じた。

そして、さらに他チームと差別化を図るために意識的にペナルティーを減ら

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すことで、高いレベルの試合における勝利に近付くことができるのではないか

と考える。

後に、大木(2013)が行った分析結果と本稿の分析結果を有効に活用して

今後の神戸大学アイスホッケー部での指導に役立てたい。