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Ⅱ.カナダ

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Ⅱ.カナダ

【ポイント】

○ 1990 年代に財政収支を黒字化させ、財政健全化を達成したが、その後の

2008 年の世界的な経済金融危機の影響による税収減と景気対策による歳

出増のため、2008 年度1には 12 年ぶりに財政収支が赤字へと転落。

○ 連邦政府においては、2015 年度までに財政収支を黒字化し、2021 年度ま

でに「累積債務残高2」対 GDP 比を 25%まで縮減するという財政健全化目

標を掲げており、直近の「2014 年度予算計画」においては、両目標とも

達成できる見通し。

○ 増税せず、年金や児童給付等の個人への交付金と医療・社会福祉等のた

めの州政府等への交付金を削減しないという現政権の方針の下、「直接プ

ログラム支出3」という連邦政府の裁量的経費の抑制を中心とした地道な

歳出抑制の取組みを継続的に実施。

1.経済金融危機以降の経済・財政状況

(1)経済状況

カナダ経済は、地理的な特性もあり、米国経済との結びつきが強く、米国の

景気変動の影響を受けやすい傾向にある。輸出については、米国向けがその7

割以上を占めている(2012 年)。

2007 年の実質 GDP 成長率は 2.0%と堅調に推移していたが、2008 年に発生し

た世界的な経済金融危機の影響により、急激に落ち込み、2008 年は 1.2%、

2009 年には▲2.7%とマイナス成長に陥った。経常収支対 GDP 比についても

2009 年以降は赤字となっている(図1)。

この間、政府4は 2009 年1月に住宅建設促進策やインフラ建設緊急対策など

の景気対策を盛り込んだ「2009 年度予算計画」5を発表した。その後、実質 GDP

1 カナダ連邦政府における会計年度は、当年4月から翌年3月。 2 「累積債務残高」とは、純債務残高から非金融資産を引いたもの。カナダ政府が「連邦

政府債務残高」と言う場合、この「累積債務残高」のことを指す。 3 「直接プログラム支出」とは、一般行政経費や国防、公営企業等に係る経費など。 4 2006 年2月に自由党政権から政権交代が起こり、それ以降はハーパー保守党政権となっ

ている。 5 詳細は、財政制度等審議会「財政制度分科会海外調査報告書」(平成 21 年6月)43~44

頁を参照。

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成長率については民間投資や個人消費の伸びにより、2010 年には 3.4%と低成

長から脱却し、それ以降は回復傾向にある(図2)。

図1 カナダの経済状況 図2 実質成長率及び需要項目の推移

(注)経常収支及び実質 GDP 成長率は毎年、10 年物国債金利は毎月末の数値。

(出典)Statistics Canada, “National Economic Accounts”(実質 GDP 成長率、経常収支)、

Bloomberg(10 年物国債金利)

(2)財政状況

カナダでは、1990 年代初頭、米国の景気後退に伴う輸出の低迷、メキシコ経

済危機等により深刻な不況となった。この際、一般政府ベースの債務残高対

GDP 比については 1996 年で 109.4%(連邦政府ベースでは 65.8%)と、G7で

イタリア(115.6%)に次いで悪い状況まで陥った6。このため、当時のクレテ

ィエン自由党政権は、「プログラム・レビュー」といわれる既存施策の徹底的

な見直しや、州政府等への交付金の抑制等を実施し、1997 年度には財政収支を

黒字化させ、財政健全化を達成している(【参考1】)。

その後も財政収支について黒字を継続していたが、近年、2008 年に発生した

世界的な経済金融危機の影響により税収が減少する一方、景気対策により歳出

を増加させたため、1996 年度以来 12 年ぶりに財政収支(連邦政府)が赤字へ

と転じた。これに伴い、債務残高についても連邦政府ベースの「累積債務残高」

対 GDP 比について見れば、2008 年度の 28.2%から 2009 年度の 33.1%というよ

うに、年々増加している状況ではあるものの、現在もG7の中では良好な財政

状況を維持していると言える(表1、図3)。

6 OECD, “Economic Outlook No.95”(2014 年5月)より

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表1 カナダの財政状況(連邦政府)

(億カナダドル・対 GDP 比(%))

2007

年度

2008

年度

2009

年度

2010

年度

2011

年度

2012

年度

2013

年度

2014

年度

2015

年度

2016

年度

2017

年度

2018

年度

歳出 2,359 2,430 2,777 2,742 2,754 2,756 2,805 2,792 2,869 2,987 3,097 3,221

歳入 2,455 2,373 2,221 2,408 2,491 2,566 2,640 2,763 2,933 3,068 3,177 3,324

財政収

支 0.6 ▲0.3 ▲3.5 ▲2.0 ▲1.5 ▲1.0 ▲0.9 ▲0.1 0.3 0.4 0.4 0.4

「累積債

務残高」 29.2 28.2 33.1 33.1 33.2 33.1 33.0 32.0 30.3 28.6 27.0 25.5

(出典)2011 年度迄は Department of Finance Canada, “Fiscal Reference Tables”(2013 年 10 月)、

2012 年度以降は「2014 年度予算計画」(2014 年2月)による。

図3 財政収支・「累積債務残高」対 GDP 比の推移

(連邦政府)(2007~2014 年度)

(出典)2011 年度迄は Department of Finance Canada, “Fiscal Reference Tables”(2013 年 10 月)、

2012 年度以降は「2014 年度予算計画」(2014 年2月)による。

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【参考1】1990 年代に実施されたカナダの財政健全化策7

当時のクレティエン自由党政権では、1996 年度までに財政赤字(連邦政

府)を対 GDP 比で▲3%とするという財政健全化目標の下、以下のような財

政健全化策を実施した。なお、当時の経済状況8としては、1992 年に景気後

退期が終了し、実質 GDP 成長率もプラス成長が続き、歳入が増加した。こう

した経済的条件も財政健全化の成功要因の一つと言える。

① 「プログラム・レビュー」

「プログラム・レビュー」とは、「6つの基準9」に基づき、連邦政府の

役割を再定義し、既存施策の徹底的な見直しを行うというもの。個人への

交付金、州政府等への交付金を除く、レビューの対象となる各省庁の予算

を 1994 年度から4年間で平均 22%削減(実額ベース)することを目標10と

して、連邦政府公務員の削減、政府系企業の民営化、産業補助金の削減等

の歳出の見直しを実施した。

② 交付金改革

従来の「制度財源調達法」(EPF:Established Programs Financing)によ

る医療・教育への補助金と「カナダ社会扶助計画」(CAP:Canada Assistance

Plan)とを統合して、新たにブロック補助金である「カナダ医療社会交付金」

(CHST:Canada Health and Social Transfer)11を設立することにより、州

7 詳細は、財政制度等審議会「財政制度分科会海外調査報告書」(平成 18 年5月)41~44

頁を参照。 8 内閣府「世界経済の潮流 2010 年Ⅱ」(平成 22 年 11 月)によれば、当時の景気後退期は、

1990 年4月~1992 年4月であったとされている。 9 ①公共の利益に資するか(公共性の基準:Public Interest Test)、②政府が行うことが

適切か(政府の役割の基準:Role of Government Test)、③連邦政府ではなく、州・地

方政府が行う方が良いのではないか(連邦政府の基準:Federalism Test)、④民間やボ

ランティアセクターに委託できないか(民営化の基準:Partnership Test)、⑤いかに効

率を高めるか(効率性の基準:Efficiency Test)、⑥厳しい財政状況下であえて実施す

るかどうか(費用負担の基準:Affordability Test)

※ その後、2000 年代には、⑦税金の支出に見合った価値があるか(コストパフォーマ

ンスの基準:Value for Money Test)の観点が追加されている。 10 支出削減目標額は、「1996 年度予算計画」(1996 年3月)によれば、1994 年度の 517 億

カナダドルから 1998 年度の 406 億カナダドルと、約 111 億カナダドルである。なお、こ

の間の歳出全体総額は、Department of Finance Canada, “Fiscal Reference Tables”

(2013 年 10 月)によれば、1994 年度の 1,674 億ドルから 1998 年度の 1,597 億カナダド

ルと、約 77 億ドル削減されている。 11 その後、2004 年に CHST は、保健医療に対する連邦政府の貢献度合いをその他の社会支

出(高等教育、福祉等)に対するそれと区別して明確化するため、「カナダ医療交付金」

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政府等の裁量を拡大する一方、CAP に導入されていた半額補助を廃止し、一

定額補助への切替えを実施することなどによって総額の減額を実施した。

図4 財政収支・「累積債務残高」対 GDP 比の推移

(連邦政府)(1993~2000 年度)

(出典)Department of Finance Canada, “Fiscal Reference Tables”(2013 年 10 月)

【参考2】州・準州政府における財政状況

カナダは米国同様、独立主権を有する州を構成単位とする連邦国家であ

り、現在、10 の州(province)と3つの準州(territory)で構成されてい

る。

州・準州政府全体の財政状況は、連邦政府と同様、2007 年度まで財政収支

は黒字(州・準政府の合計)であったが、2008 年に発生した世界的な経済金

融危機の影響を受け、翌年度に財政収支は赤字へと転じている(図5)。

なお、各州・準州政府の多くにおいても、連邦政府と同様に財政健全化目

標を設定し、財政健全化の取組みを行っている。例えば、オンタリオ州で

は、現自由党政権が 2017 年度までに財政収支を均衡させることを目標として

おり、ケベック州では、2014 年4月の州議会選挙で政権に返り咲いたケベッ

ク自由党が 2015 年度までに財政収支を均衡させることを目標としている。

(CHT:Canada Health Transfer)と「カナダ社会交付金」(CST:Canada Social

Transfer)に分割されている。

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図5 州・準州政府合計の財政状況(2007~2012 年度)

(出典)Department of Finance Canada, “Fiscal Reference Tables”(2013 年 10 月)

2.財政健全化目標

現在、カナダにおいては、以下の二つの財政健全化目標を掲げている。

(ⅰ) 2015 年度までに財政収支(連邦政府)を黒字化させる

(ⅱ) 2021 年度までに「累積債務残高」対 GDP 比(連邦政府)を 25%まで

縮減する

両目標については、直近の 2014 年2月に公表された「2014 年度予算計画」

においても掲げられており、2013 年9月のサンクトぺテルブルク・サミットに

おいて国際的にもコミット12している。「2014 年度予算計画」によれば、2015

年度の財政収支対 GDP 比は 0.3%、2021 年度の「累積債務残高」対 GDP 比は

25.0%と両目標とも達成できる見通しが示されている。

なお、予算計画はカナダ財務省が主体となって作成するものであり、閣議決

定されるものであるが、法的拘束力はない。その後、議会にて予算計画と整合

12 “St. Petersburg Fiscal Templates-G-20 Advanced Economies”(2013 年9月)

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的な歳出予算法が作成され、政府への歳出権限が付与されることとなる。

また、カナダにおいて経済財政見通しは、民間エコノミストの平均値を「リ

スク調整」(risk adjustment)13した上で作成されている。カナダ財務省の担

当者(支出分析・財政政策予測課長)によれば、「政府が意図的に介入したと

いう印象を与えないため、財務省独自の試算は行わず民間エコノミストの平均

値を用いている。」とのことであった。

図6 財政健全化目標の達成見込み

(注)2013 年度は見込み、2014 年度は見通し。

(出典)「2014 年度予算計画」(2013 年2月)

13 「リスク調整」とは、民間エコノミストの平均値から名目 GDP に関して各年度で 200 億

カナダドルずつ減らす調整のこと。例えば、2014 年度において、「リスク調整」後の財政

収支は調整前と比べて約 30 億ドル悪化する。

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3.歳出・歳入の構造

2014 年度のカナダ予算の歳出・歳入の内訳は以下の通りである。

歳出は大きく分けると、以下の三類型で構成されている。

(ⅰ) 個人への交付金(Major transfers to persons)

以下の歳出の構成においては、「高齢者給付」、「雇用保険給付」、「児童

給付」がこれに当たる。

(ⅱ) 州政府等への交付金(Major transfers to other levels of government)

以下の歳出の構成においては、「医療・社会福祉政策のための移転」、

「財政調整等」がこれに当たる。

(ⅲ) 「直接プログラム支出」(Direct program expenses)

また、歳入については、個人所得税がその大宗を占めており、歳入の約半分

を占めている(図7)。

図7 カナダの歳出・歳入構成(2014 年度予算)

(注1)「財政調整」とは、州・準州に対する平衡交付金など。

(注2)カナダの 2014 年度の名目 GDP は約 1兆 9,320 億カナダドル。

(注3)歳出と歳入の差額については、歳入不足であり、公債を発行。

(出典)「2014 年度予算計画」(2014 年2月)

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4.財政健全化目標の達成に向けた具体的取組み

(1)財政健全化策の全体像

「2010 年度予算計画」においては、景気への配慮から、「増税しない」、「個

人への交付金(ⅰ)を削減しない」、「州政府等への交付金(ⅱ)を削減しない」14という方針を定めており、それ以降、歳出全体の約4割を占める(ⅲ)「直接

プログラム支出」の抑制を中心に歳出抑制が進められている(後述の(2)①、

②を参照。)。他方、「増税せず」という方針の下でも、歳入増加策としては、

税制の抜け穴防止をはじめとした措置がとられている(後述の(2)③を参

照。)。

また、「2014 年度予算計画」の中で示されている 2010 年度以降の財政健全化

策における歳入増加と歳出抑制の割合を見てみると、近年、歳出抑制を中心と

した財政健全化が進められていることが分かる(図8)。

図8 財政健全化策における歳入増加と歳出抑制の割合

(注)歳入増加と歳出抑制の額は経済成長等を織り込んだ見通しから比較したものであり、上記措置を講

じたとしても、2010 年度から 2018 年度にかけて、「直接プログラム支出」では、1,224 億カナダドルか

ら 1,242 億カナダドル、歳出全体でも 2,742 億カナダドルから 3,221 億カナダドルに伸びると見込まれ

ている。

(出典)「2014 年度予算計画」(2014 年2月)

カナダ財務省の担当者(支出分析・財政政策予測課長)によれば、「現政権

の公約としてこのような財政健全化策の方針を定めており、個人への交付金や

州政府等への交付金については GDP の伸び率と連動させて伸ばしてもよいこと

になっている。」とのことであった(図9)。また、「1990 年代の財政健全化策

14 「2010 年度予算計画」(2010 年3月)より。

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は州政府等への交付金についても削減を実施しており、これに比べると今回の

財政健全化策は規模も大きなものではなく、経済に対するネガティブな影響は

少ないと考えている。」とのことであった。

図9 各項目別の伸び率の推移(イメージ)

(出典)「2014 年度予算計画」(2014 年2月)

(2)主な財政健全化策

このようにカナダにおいては歳出、中でも「直接プログラム支出」を中心と

した地道な歳出抑制の取組みが継続して行われている。歳出抑制を行うモチベ

ーションが維持できている理由として、カナダ財務省の担当者(支出分析・財

政政策予測課長)によれば、「カナダにおいては 1990 年代以前より、現在と同

様の赤字削減策は提言されていたが、国民の財政健全化への culture がなかっ

た。ウォール・ストリート・ジャーナルにカナダは『名誉ある第三世界の一員

(an honorary member of the Third World)』であるとの記事が掲載されたこ

とも危機感を醸成した一つの要因であろう。」とのことであった。

以下、近年の主な財政健全化策について列挙する。

① 「戦略的見直し」(Strategic Review)

前述の通り、カナダにおいては 1990 年代に財政健全化を達成しており、「プ

ログラム・レビュー」の取組みが継続してなされるよう、既存施策の継続的な

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見直し、新規施策の妥当性の検証、予備費の既存施策への充当禁止等の歳出管

理の枠組みを構築していた15。こうした中、「戦略的見直し」は 2007 年に導入

が決定された。本制度は、「直接プログラム支出」を見直しの対象とし、連邦

政府全体の施策を毎年 25%ずつ、4年間のサイクルでレビューを行う(「直接

プログラム支出」の 98%をカバーする。)。

「直接プログラム支出」全体のうち、5%の削減を目標とし、その目標に基

づき、各省庁がレビューを行い、国家財政委員会事務局(TBS:Treasury

Board Secretariat)との協議を踏まえ、最終的に各省大臣が削減を実施する。

これまで4回の「戦略的見直し」が実施され、7年間(2008~2014 年度)で約

110 億カナダドルの歳出抑制が見込まれている(表2)。

導入直前(2007 年度)のカナダの財政収支は黒字であったが、将来的に赤字

に転じることが予測されていたため、本制度が導入されることとなった。初年

度(2008 年度)は、歳出抑制による余剰額を各省庁における他の重点分野へと

再配分することを想定していたが、その後の世界的な経済金融危機に伴う財政

収支の赤字への転落を受け、抑制額は均衡予算達成のために用いられることと

なった。

表2:「戦略的見直し」の歳出抑制額の推移

(億カナダドル)

2008

年度

2009

年度

2010

年度

2011

年度

2012

年度

2013

年度

2014

年度 合計

戦略的見直し 2007 2.0 3.1 3.9 4.0 4.0 4.0 4.0 25.0

戦略的見直し 2008 3.5 4.5 5.9 6.0 6.0 6.0 31.9

戦略的見直し 2009 1.5 2.5 2.9 2.9 2.9 12.6

戦略的見直し 2010 1.9 2.7 5.7 5.3 15.6

国防省 5.3 10.0 10.0 25.3

抑制額合計 2.0 6.6 9.9 14.2 20.8 28.6 28.2 110.4

(注)歳出抑制額は経済成長等を織り込んだ見通しから比較したもの。

(出典)「2011 年度予算計画」(2011 年6月)

② 「Strategic and Operating Review」

均衡財政の達成に向け、更なる歳出の見直しを行うべく、前述の「戦略的見

直し」に続くものとして、「2011 年度予算計画」において「Strategic and

15 詳細は、総務省行政評価局「カナダ・米国における実績評価の動向及びその運用実態に

関する調査研究報告書」(平成 25 年2月)24頁を参照。

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Operating Review」の実施が提唱された。これは、「直接プログラム支出」に

おける支出管理だけでなく、主に運用経費(経常経費)に着目した歳出抑制策

を実施することが特徴として挙げられる。

具体例としては、以下に列挙した取組み等が挙げられる。

・ 1セント硬貨の製造費用の高さに鑑み、その流通を廃止。また、他の硬貨

の材質をより安価なものへと変更。

・ 在外の公邸等を売却し、より規模の小さなものに移行。それに伴いスタッ

フ数を削減。

2012~2014 年度の3年間でレビューを行い、「2012 年度予算計画」によれば、

年間 52 億カナダドルの歳出抑制が見込まれている。

また、TBS の担当者(支出見直し・歳出政策課分析官)によれば、「政府の運

営上のコスト削減に関しては、国家財政委員会に設置された小委員会(Sub-

Committee on Government Administration)において、更にレビューを行うこ

ととなった。」とのことであった。

③ 主な歳入増加策

歳入増加策については、前述の通り、増税ではなく税制の抜け穴防止等を中

心とした取組みが行われている。「2014 年度予算計画」によれば、「2006 年度

予算計画」以降、85 の措置を導入したとされている。

具体例としては、以下に列挙した取組み等が挙げられる。

・ 「2013 年度予算計画」においては、脱税を助長する不正ソフトの所持・販

売等への罰則強化、租税回避防止のためのカナダ歳入庁による銀行等からの

情報取得強化等

・ 「2014 年度予算計画」においては、虚偽の税務申告に対する罰則強化、多

国籍企業に対する課税強化等

5.社会保障と財政

カナダでは、憲法上、老齢年金等が連邦政府の管轄とされる一方、その他の

社会保障のほとんど(保健医療、公衆衛生、福祉等)は州政府の管轄とされて

おり、社会保障分野における州政府の役割は非常に大きいものとなっている。

以下では、社会保障分野の中でも年金、医療分野における連邦政府の役割を

中心に概観することとする。

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(1)年金

老齢年金については、主に連邦政府の所管事項16となっており、連邦政府が

運営する基礎年金部分(1階部分)と連邦政府と州政府が共管で運営する報酬

比例年金部分(2階部分)の2階建て構造となっている。

1階部分は、

(ⅰ)国内居住要件を満たす全ての者に対して支給される「老齢所得保障」

(OAS:Old Age Security)と、

(ⅱ)低所得者の年金受給者に対する「補足的所得保障」(GIS:Guaranteed

Income Supplement)

により構成されている。OAS については、税制上の措置として高所得者の高齢

者は、年金の一部又は全額を払い戻す仕組みであるクローバック(claw back)

を備えている。

2階部分は、

(ⅰ)被用者及び自営業者が加入する連邦政府と州政府が共管で運営する「カ

ナダ年金プラン」(CPP:Canada Pension Plan)

(ⅱ)ケベック州については、ケベック州で働く者に適用される「ケベック年

金プラン」(QPP:Quebec Pension Plan)

により構成されている(図 10)。CPP については、一定規模の積立金を確保し、

「CPP 投資委員会」(Canada Pension Plan Investment Board)により市場で運

用が行われている。

図 10 カナダにおける年金制度のイメージ

(出典)厚生労働省「2013 年海外情勢報告」(平成 26 年4月)

16 OAS は、発足当初は連邦政府と州政府の共同運営によるものだったが、1951 年に成立し

た「老齢所得保障法」(Old Age Security Act)により、連邦政府の権限となった。

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財源については、1階部分の OAS 及び GIS は連邦政府の一般財源(租税)に

よって賄われており、2階部分の CPP は保険料収入及び積立金の運用収益によ

って賄われている。

(2)医療

医療については、州政府の所管事項となっており、そのほとんどが公的財源

で負担され、無料である。この国民医療制度は「メディケア」(Medicare)と

呼ばれ、居住要件を満たせば本制度の対象となる。なお、在宅ケアや薬剤、歯

科等については一部を民間保険や自己負担により対応する。低所得者等に対し

ては、これについても公的財源で負担するケースがある。なお、カナダ保健省

の担当者(戦略政策部カナダ医療法課 副課長)によれば、「コアとされるサー

ビス(入院や外来診療等)については、英国の NHS(National Health Service)

と似ており、それ以外の部分は、米国の医療保険制度と似ている。カナダの医

療保険制度は、英米のハイブリッド型と言える。」とのことであった。

また、州毎の施策の方向性を統一させるため、連邦政府、州・準州政府を合

わせた 14 名の保健大臣によって、保健大臣会合を開催している。同会合にお

いて連邦政府はとりまとめ役を担うが、意思決定には参画しない。

財源については、原則として州政府が財政上の責任を負っているが、連邦政

府からは「カナダ医療交付金」(CHT)等の交付金により財政的支援を実施して

いる。

(3)今後の見通し

過去5年間の歳出の推移を見ると、医療(医療・社会福祉政策のための福祉

政策のための移転)、年金(高齢者給付)等の社会保障関係支出は毎年増加傾

向にある(図 11)。

図 11 過去5年間の社会保障関係支出の推移(連邦政府)

(出典)「2014 年度予算計画」(2014 年2月)

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年金に関しては、「2012 年度予算計画」により、2023 年4月から OAS 及び

GIS の受給開始年齢の 65 歳から 67 歳への引上げ開始が決定されており、2029

年1月には引上げが完了する予定となっている。改正理由としては、現行制度

は国民が現在ほど長命でない時代に制度設計されたものであり、現制度下によ

る連邦政府支出は 2011 年の 380 億カナダドルから、2030 年には 1,080 億カナ

ダドルまで上昇することが見込まれ、本制度を持続可能なものとするためとさ

れている。

医療に関しては、「連邦政府として州政府に対してコスト節約等は求めない

のか。」との問に対し、カナダ保健省の担当者(戦略政策部カナダ医療法課 副

課長)によれば、「連邦政府としては介入しない。役割分担が厳格であり、連

邦政府と州・準政府とで双方介入はしない。連邦政府が何かを州・準州政府に

やらせたいと考えた際は、交付金等で間接的に介入することになる。」とのこ

とであった。

6.我が国へのインプリケーション

1990 年代に財政健全化を達成させた自由党政権(クレティエン政権(1993~

2003 年)、マーティン政権(2003~2006 年))から、近年、保守党政権(ハー

パー政権 2006 年~)へと政権交代が起こっているが、この間もカナダにおい

ては継続した歳出抑制の取組みが進められてきた。

現在の保守党政権においては、歳出抑制のための施策として、2008 年の世界

的な経済金融危機が起こる以前から、「直接プログラム支出」という連邦政府

の裁量的経費に的を絞った「戦略的見直し」を導入し、その後の経済金融危機

発生後も一定程度の景気対策は行いつつも、明確に財政健全化目標を掲げ、財

政健全化に向けた取組みを推進してきた。さらに、その後も均衡財政の達成に

向け、「直接プログラム支出」における運用経費(経常経費)にも着目した

「Strategic and Operating Review」を立て続けに実施している。このように、

カナダにおいては、政権交代があった中でも、政府と議会が財政健全化の必要

性を共有し、歳出抑制を中心とした取組みが一貫して行われている。

他方、社会保障制度においては、連邦政府と州・準州政府との役割分担が明

確に分かれており、医療・保険サービスの運営・実施について、州・準政府が

財政上の責任を負っており、連邦政府はブロック補助金を交付し、州・準州政

府の財政運営によって生じたリスクを負わない。

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【参考】カナダにおける予算編成の流れ

(注1)議会予算局(PBO:Parliamentary Budget Officer)は、経済財政見通しの作成やプログラムの

コスト分析等を通じ、議会へ情報提供することを目的として 2008 年に設置された。PBO 自身は、

予算編成に直接関わらない。

(注2)各省と議会との関係について、各省は予算要求段階より議会や利害関係者と適宜相談を行う。

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<参考文献>

・ オンタリオ州財務省ホームページ

http://www.fin.gov.on.ca/en/index.html

・ カナダ財務省(Department of Finance Canada)ホームページ

http://www.fin.gc.ca/fin-eng.asp

・ カナダ統計局(Statistics Canada)ホームページ

http://www.statcan.gc.ca/start-debut-eng.html

・ カナダ保健省(Health Canada)ホームページ

http://www.hc-sc.gc.ca/index-eng.php

・ ケベック州財務省ホームページ

http://www.finances.gouv.qc.ca/en/index.asp?

・ 国家財政委員会事務局(TBS)ホームページ

http://www.tbs-sct.gc.ca/tbs-sct/index-eng.asp

・ 厚生労働省「2013 年海外情勢報告」(平成 26 年4月)

・ 財政制度等審議会「財政制度分科会海外調査報告書」(平成 18 年5月)

・ 財政制度等審議会「財政制度分科会海外調査報告書」(平成 21 年6月)

・ 総務省行政評価局「カナダ・米国における実績評価の動向及びその運用実

態に関する調査研究報告書」(平成 25 年2月)

・ 内閣府「世界経済の潮流 2010 年Ⅱ」(平成 22 年 11 月)

・ Department of Finance Canada, “Fiscal Reference Tables”(2013 年 10 月)

・ OECD, “Economic Outlook No.95”(2014 年5月)

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