シンボルマーク・ロゴタイプ LORCジャーナル...

龍谷大学地域公共人材・ 政策開発リサーチセンター(LORC) LORC ジャーナル 地域協働 2017.3 vol. 10 『テキストブック現代財政学』 『ローカルに生きる ソーシャルに働く』 『地域分散型エネルギー・システム 集中型からの移行をどう進めるか』 『辺野古訴訟と法治主義 行政法学からの検証』 研究活動報告 論文 地域に根ざした市民ガーデンの創出 スペイン・セビーリャを対象に 報告 ポートランド州立大学のコミュニティ・ ベースド・ラーニング(CBL)に学ぶ ポートランド州立大学共催国際シンポジウム LORCとポートランド州立大学(PSU)と の連携の新たな展開 亀岡現地エクスカーション CBLサポートスタッフのためのワーク ショップ 第1研究班講演会 The Sanpuku Action: Social Designing Satoyama Tea Transformations in Pinglin, Taiwan 第2研究班ユニット2研究会 世界的に進みつつある職業能力の標準化 第2研究班ユニット3 塔下新池ため池ソーラー発電所  稼働開始

Transcript of シンボルマーク・ロゴタイプ LORCジャーナル...

龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC) LORC ジャーナル 地域協働

2017.3

vol.10

『テキストブック現代財政学』『ローカルに生きる ソーシャルに働く』『地域分散型エネルギー・システム 集中型からの移行をどう進めるか』『辺野古訴訟と法治主義 行政法学からの検証』

研究活動報告

論文

地域に根ざした市民ガーデンの創出

︱スペイン・セビーリャを対象に

= 100= 0= 0= 0

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= 30= 0= 100= 0

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フルカラー

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LORCシンボルマーク・ロゴタイプ

報告

ポートランド州立大学のコミュニティ・ ベースド・ラーニング(CBL)に学ぶ

ポートランド州立大学共催国際シンポジウム

LORCとポートランド州立大学(PSU)との連携の新たな展開

亀岡現地エクスカーションCBLサポートスタッフのためのワークショップ第1研究班講演会

The Sanpuku Action: Social Designing Satoyama Tea Transformations in Pinglin, Taiwan第2研究班ユニット2研究会世界的に進みつつある職業能力の標準化第2研究班ユニット3

塔下新池ため池ソーラー発電所 稼働開始

LORC ジャーナル 地域協働CONTENTS

2014 ~ 2018 年度 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業

= 100= 0= 0= 0

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= 30= 0= 100= 0

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LORCシンボルマーク・ロゴタイプ

LORC ロゴについてLORC の「O」の部分に、理論・実践・人材開発の3つの輪が集合する状態を表現しています

研究活動報告

図書紹介

論 文1

1113

16

18

20

21

23

報 告   ポ ー ト ラ ン ド 州 立 大 学 共 催 国 際 シ ン ポ ジ ウ ム

6

5LORCとポートランド州立大学(PSU)との連携の新たな展開村田 和代 (龍谷大学政策学部 教授)

ポートランド州立大学のコミュニティ・ベースド・ラーニング(CBL)に学ぶ亀岡現地エクスカーションCBL サポートスタッフのためのワークショップ

第 1 研 究 班 講 演 会

The Sanpuku Action: Social Designing Satoyama Tea Transformationsin Pinglin, Taiwan

第 2 研 究 班 ユ ニ ッ ト 2 研 究 会

世界的に進みつつある職業能力の標準化

第 2 研 究 班 ユ ニ ッ ト 3

塔下新池ため池ソーラー発電所 稼働開始

地域に根ざした市民ガーデンの創出 ― スペイン・セビーリャを対象に佐倉 弘祐(信州大学工学部 建築学科 助教)

表紙の写真:亀岡農業公園ソーラーシェアリング圃場にて。PSU 教員を伴っての現地エクスカーションの様子。

報 告

はじめに

欧州諸都市では、古くから経済危機、戦争

などの危機的状況に陥った折に、都市部の空

地を農地に転用し、折折の市民のニーズに応

じた暫定利用が行われてきた。近年のとりわ

け南欧諸国において顕著な危機的な社会情勢

は、従前より繰り返されてきた経済危機に加

え、環境問題、少子高齢化社会など、従来に

はない新たな危機も重なっている。そうした

中で、都市部の空地を利用した農地も多様化

し、特に2008年のリーマンショック以降、

急増している。

一般的に都市部で農作物を栽培するための農

地は、「都市農地(Urban Agricultural Land

)」

や「市民菜園(Allotm

ent Garden

)」などと呼

ばれる。本研究では、①市民が運営主体となり、

②近年の社会情勢に応じ、③都市部の空地を利

用し、④農業+αの機能をもつ農地に着目し、

「市民ガーデン」と呼称する。市民ガーデンに

着目する理由は、一連の欧州都市農地研究を通

じ1、行政や企業が運営主体の都市農地と比べ、

市民が運営主体の場所の方が、活気に満ちた空

間を形成している場合が多いと経験的に感じた

ためである。

LORC研究員 

佐倉 

弘祐(信州大学工学部 

建築学科 

助教)

  地域に根ざした市民ガーデンの創出 —

スペイン・セビーリャを対象に

 

論文

図 1 市街地拡張の変遷と市民ガーデンの立地場所

LORC ジャーナル 1

スペイン諸都市の中でも市民ガーデンの建設

が最も早く、その件数も国内一二を争う程であ

り、現在最も市民ガーデン建設の勢いのあるス

ペイン第4の都市セビーリャとして2、現地調

査・ヒアリング調査3、参考文献より、地域に

根ざした多様なタイプの市民ガーデンの形成過

程、地域性と市民ガーデンの特性の相関関係を

明らかにすることを目的とする。

地方創生に注目が集まっている昨今の我が国

において、各地方都市の地域性を色濃く出し、

他都市との差異化を図ることで、シビップクラ

イドを高め、IUJターン者の増加を創出する

ような都市政策が求められている。本研究はそ

の一ツールとしての市民ガーデンという見方で

我が国にも応用可能と考えている。

2

セビーリャの市民ガーデンの変遷と現状

1991年にスペイン初となる市民ガーデ

ン、ミラフローレス公園が形成され、アルコ

サ農場、タマルギーリョ公園を始め、セビー

リャ市内の多くの市民ガーデン創造の模範と

なり、増加していった4。特に2006年か

らの増加が著しく、2017年2月現在、13

箇所の市民ガーデンが存在している5(図1)

参照)。立地場所と規模より、セビーリャの市

民ガーデンは主に①ミラフローレス公園やア

ラミージョ公園のような「都市周縁部大規模

型」、②ポリゴノ・スルやベリャビスタのよう

な「地区内小規模型」、③レイ・モロ農園のよ

うな「歴史地区内小規模型」の3タイプに大

別できる。次章以降で、各タイプの代表事例

を取り上げ、形成過程、地域性との相関関係

を整理する。

3 

都市周縁部大規模型市民ガーデンの先駆的

事例ミラフローレス公園

ミラフローレス公園はセビーリャ市の北部に

位置し、市民ガーデンの成功事例として注目を

集め、スペイン全土のみならず、フランス、ド

イツ、アルゼンチン、カナダなど、世界中から

毎年多数の訪問者が訪れ、世界中の市民ガー

デン形成に影響を及ぼしている6。後述する委

員会による一連の取り組みは、2012年に

„セビーリャ市勲章(M

edalla de la Ciudad

)“、

2014年に„自然環境アンダルシア賞(Prem

io Andalucía de Medio Am

biente

)“を授与された7。

この公園が位置するエリアは、19世紀末まで

は灌漑農地の風景が一面に広がっていたが、20

世紀の間に徐々に市街化の波に呑まれ、消失

していった経緯を持つ。市街化が進む中、セ

ビーリャ市当局は、1963年に現在の位置

に、86haのミラフローレス公園を建設する

計画を都市整備総合計画(Plan General de

Ordenación Urbana

)の中に盛り込んだもの

の、その後80年代に入っても全く進まず、灌漑

農地としても郊外住宅エリアとしても利用さ

れず、未利用地として放置される歳月が続い

た。そして、周辺住民らによりミラフローレス

自然教育園推進委員会(Com

ité Pro-Parque Educativo M

iraflores)が1983年に結成さ

れ、①文化と教育に関連した娯楽としての緑地

空間の形成、②地域に根ざした自然環境、歴史

の尊重という2つの指針と共に、公園建設を目

指す取り組みが開始された8。

„ここは既に公園だ(parque ya)“と書か

れたプラカードを携え公園予定地を行進するデ

モ活動に端を発し、不法占拠、自治組織へと発

展していった。特筆すべき点として、近隣住民

らが自分たちで現地調査を綿密に行い、ローマ

時代や中世の頃の井戸、水車小屋、民家、橋を

発見し、それらの保全を組み込む公園建設プロ

ジェクトを1991年に作成した。そのプロ

ジェクトは①歴史的建造物の改修を目的に若

者を対象にしたワークショップの実施、②市民

ガーデンの建設の2つから構成され、市民ガー

デンの建設へと至った9。

地域性との関係について分析すると、①この

敷地は、19世紀末まで灌漑農地として利用され

ていたため、農地に適した肥沃な土壌であった、

2

写真1 ミラフローレス公園の農地(手前)と民家(奥)

LORC ジャーナル 3

②豊かな地下水脈の通り道の上に位置し、汲み

上げ水を無料で利用できた、③歴史的価値の高

い建造物が複数残っていた点が重要と考えられ

る。地域住民により結成された委員会が運営主

体であったからこそ、これらの地域性を計画に

十分に取り込むことができ、持続的な市民ガー

デンの形成へと繋がったのではないだろうか。

4 

劣悪な住環境から生まれた地区内小規模型

市民ガーデン

ポリゴノ・スル地区は、セビーリャの中で

最も貧困、ドラッグ、犯罪に脅かされている

地区であり、この地区の市民ガーデンは、最

低限の食料を自分たちで確保することを目的

に発展した。

市民ガーデンの主体を担っているのは、ポリ

ゴノ・スル地区の住民らによって構成される南

部の緑化組合(Asociación Verdes del Sur)

であり、2012年に結成されて以来、地区内

の様々な空地を市民ガーデンに転用している。

この地区の市民ガーデンは、大きく2つに大別

でき、どちらもこの地域特有の空間として注目

を集めている10。

一つ目が、地区内の11箇所の教育施設(主に

幼稚園と小学校)のグランドの一部を利用した

市民ガーデンである。①通りに面した空地を農

地に転用してもすぐに農作物が盗まれてしまう

現状、②特に子育て世帯の金銭難が深刻であり、

校庭で栽培した野菜を給食に利用してもらうこ

とで多少でも給食費を節約できる、③子供の減

少によりグラウンドが使われなくなっている現

状というこの地域特有の状況に呼応し、市民

ガーデンは形成された。

二つ目が、「アクアポニックス」という最先

端の農業技術を用いた装置を用いた市民ガーデ

ンであり、こちらも小学校のグラウンドに配置

されている。セビーリャ大学農学部のアクアポ

ニックスの装置作成技術支援とクラウドファン

ディングを活用した近隣住民、市民、企業から

の寄付金提供を得ることで実現に至った。野菜

の栽培と魚の養殖を同時に行い、両者を循環さ

せることで相乗効果を得る仕組みとなってお

り、2014年の1年間に21kgの魚と60kg

の野菜の収穫に成功した11。地域性の観点から

この事例を分析すると、食料確保という喫緊の

課題と直面しているからこそ、外部の有識者・

研究機関からの支援を積極的に受ける姿勢へと

繋がり、成功をもたらす大きな要因になったと

考えられる。

5 

都市中心部の憩いの場としての歴史地区小

規模型市民ガーデン

欧州のほぼ全ての都市に共通し、市民ガーデ

ンは都市周縁部に形成される傾向にあり、都市

中心部(歴史地区)に市民ガーデンが形成され

る事例は非常に少ない。それは、①地価が高い

こと、②日当たりが悪いこと、③近くに既存の

農地がなく、灌漑用水や地下水の利用が困難な

こと、が主な理由として挙げられる。しかしセ

ビーリャ市歴史地区内に位置するレイ・モロ農

園は、例外的存在であり、都市住民に広大な緑

地空間を提供している。

この敷地は約5,000㎡あり、モーロ人の

王(Rey M

oro

)の王宮内の農地として15世紀

末から16世紀初頭にかけて建設・利用され、王

宮の背部に位置していた。しかし王宮としての

利用はそれほど長くは続かず、その後は放置さ

れる状況が続いた。

この敷地が再び注目されるようになったの

は、1987年に作成された都市整備総合計

画(Plan General de O

rdenación Urbana en 1987

)において、この地に集合住宅を建設

する計画が持ち上がったことによる。この計

画を契機に、近隣住民は徐々に結束し、この

敷地の重要性を再認識し、市当局への抗議活 写真 2 レイ・モロ農園の公園部分

動を実施するようになった。その硬直状態は

10年以上も続き、2001年にアンダルシア

評議会によって重要文化財(Bien de Interés

Cultural)に指定され、この敷地の開発は免れ

たと思われたが、その後も市当局の意向は変わ

らず、2006年の都市整備総合計画において

も1987年の計画は継承された12。

そうした状況に痺れを切らし、近隣住民らに

よって構成されたラ・ノリア町内会によって

2004年2月から不法占拠による再利用が始

まり、この地区に不足している緑地空間、住民

の集える場、共同で農作業とコミュニケーショ

ンを促進できる市民ガーデンを含む地域に開け

た公園が建設された。

地域性という観点において、レイ・モロ農園

が持つ特徴は、2008年に地球物理学者2名

による現地調査・発掘調査を依頼し、灌漑シス

テムによって巧みに農作物を栽培していた王宮

の農地として利用される以前のこの敷地の原型

を明らかにし、その結果を参考に現在の市民

ガーデンの位置を決定している点にある13。近

隣住民による農地としてだけでなく、近隣小学

校に通う小学生の農業体験授業の場としての利

用、都市住民が利用する農地と隣接した公園、

町内会による毎週末開催されるイベントなどに

よって、地域において欠かすことのできない公

共空間へと成長している。

6 

まとめ

セビーリャ市における市民ガーデンは、都市

周縁部大規模型、地区内小規模型、歴史地区内

小規模型におおよそ分類することができる。タ

イプごとの違いはあるものの、多くの場合、対

象空地が都市計画等により存続の危機に追いや

られ、市民が反発し、不法占拠という形で空地

を利用し、成果が得られた時点で市当局が空地

の利用を容認し、水道代を支払うなどの支援を

行い現在に至るという大筋は一致している。ま

た、各々の地域特性を近隣住民によって結成さ

れた町内会・委員会、場合によっては外部の専

門家を招聘し徹底的に調査することによって、

各地域に適した市民ガーデン空間を創出してい

ることを明らかにした。

【脚注】

1

佐倉弘祐:都市農業による空き空間の再編

︱スペイン地方や都市サラゴザを対象に︱、

龍谷大学制作学論集、pp.149-156,2016.3

2 Ricardo (2017.2.1

3

2016年10月1日から10月4日まで

現地調査を実施し、10月2日にセビーリャ

市都市農地専門家Raúl Puente Asuero

へのヒアリング調査を実施した。

4 José (2015), pp.247-248

5 現地調査・ヒアリング調査の結果と各市

民ガーデンのウェブページより立地場所・建

設年度を把握した。

6 Puente (2015), p.15

7 Puente (2015), pp.151-152

8 Puente (2015), p.147

9 Puente (2015), pp.147-149

10 El País, G

oteo.org, AB

C de Sevilla,

D

iario de Sevilla, Cadena SER, La Haine

など多数の地元やアンダルシアのマスメ

ディアに取り上げられている。

11 Ángeles (2015.7.12)

12 Joaquín (2012)

13 H

uerto del Rey M

oro

ウェブページに

記載

【参考文献】

1 Ricardo G

amaza (2017.2.1), La gran

apuesta de Sevilla por los huertos urbanos, El H

uffington Post

http://w

ww

.huffingtonpost.es/ricardo-gam

aza/la-gran-apuesta-de-sevill_b_14419678.htm

l

2 José Luis, K; M

orán, Nerea (2015),

Raíces en el Asfalto, Pasado, Presente y Futuro de la Agricultura Urbana, Libros en Acción, M

adrid

3 Puente Asuero, R (2015), Los H

uertos U

rbanos Comunitarios en Andalucía,

Conceptualización, Identificación y

Claves para su Gestión, Tesis Doctoral,

UPO, Sevilla

4 Ángeles Lucas (2015.7.2),Tecnología punta en las Tres M

il Viviendas de

Sevilla, El País,

http://elpais.com/elpais/2015/07/01/

planeta_ futuro/1435761050_467308.htm

l

5 Joaquín del Moral (2012), El H

uerto

del Rey Moro frente al U

rbicidio, In C

aja de Herram

ientas. Enredando Arquitecturas Autónom

as, Software

Libre y Reutilización, Arquitectura y Com

promiso Social, Universidad de Sevilla

6 Huerto del R

ey Moro

ウェブページ

http://ww

w.huertodelreym

oro.org

4

LORCとポートランド州立大学(以下PS

U)との連携は、持続可能な地域実現のための

政策や協働型ガバナンスをテーマに研究を進め

たLORCフェーズ2(2008~2010年

度)に遡る。先進都市ポートランドで長年まち

づくりに携わってこられたスティーブ・ジョン

ソン氏(PSU特命教授:当時)を研究員に迎

えたのが始まりである。

現在展開しているフェーズ4では、2015

年2月に、第1研究班が都市間連携の先進事例

調査としてポートランドを訪問し、METRO

やポートランド周辺自治体の現地調査を行った

(LORCジャーナル第7号に掲載)。訪問中に

開催されたPSUパブリックサービス実践・研

究所(Center for Public Service

)主催の

研究ミーティングで、LORCからの報告とし

て、京都アライアンスの取り組みを紹介し、そ

れが連携の新たな展開のきっかけとなった。持

続可能な地方都市行政の「かたち」や「しくみ」

についての研究に加えて、大学・地域連携や

人材育成をめぐる研究の連携が始まったのであ

る。この新たな研究テーマにおける連携を短期

間に、かつダイナミックに進めることができた

のは、第2研究班ユニット1の話し合い学構築

にも関わっていただいている西芝雅美氏(PS

U行政学部長・パブリックサービス実践・研究

所副センター長)に依るところが大きい。

2016年2月には、LORC研究メンバー

がPSUを訪問し、ポートランド州立大学パブ

リックサービス実践・研究所とLORCの共同

ワークショップ「大学の社会関与を進める教育・

研究」を2日間にわたって開催した(LORC

ジャーナル第9号に掲載)。ワークショップで

は、大学・地域連携における大学の役割や地域

と連携した教育プログラム(コミュニティ・ベー

ス・ラーニング:以下CBL)の実例を双方か

ら報告し、意見交換を行った。PSUでは、早

くからCBLを全学展開し、多様な組織や機関

とパートナーシップを構築し、現在では全学的

に必修科目となっている。PSUで展開されて

いる先進的な取り組みを国内で発信し、京都ア

ライアンスの取り組みをPSUの研究メンバー

にさらに詳しく紹介することを目的に、国際シ

ンポジウム(12月11日)、京都におけるCBL

の現地訪問(12月12日)、CBLサポートスタッ

フワークショップ(12月13日)を開催し、3日

間にわたって活発な研究交流を行った。そして、

1日目の国際シンポジウム終了後に、さらなる

教育・研究の相互交流にむけて、PSUと龍谷

大学の大学間一般協定に加えて、PSUパブ

リックサービス実践・研究所とLORCの間で

も一般協定を締結した。CBLをめぐる新たな

連携は始まったばかりである。今後のさらなる

発展に期待したい。

LORCとポートランド州立大学(PSU)との連携の新たな展開

 

報告 

ポートランド州立大学共催国際シンポジウム

LORC研究員 

村田 

和代(龍谷大学政策学部 

教授)一般協定締結式

LORC ジャーナル 5

ポートランド州立大学の

コミュニティ・ベースド・ラーニング(CBL)に学ぶ

 

報告 

ポートランド州立大学共催国際シンポジウム

日 時 2016年12月11日(日)13:30~16:30

会 場 龍谷大学深草キャンパス 和顔館B-201教室

参 加 90 人

主 催 龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)

共 催大学間連携共同教育推進事業

「地域資格制度による組織的な大学地域連携の構築と教育の現代化」/ポートランド州立大学

1. 概要

2. プログラム

時 間 内 容

13:30~

14:30

開会挨拶・イントロダクション白石 克孝

(龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)センター長)

基調講演 サイ・アドラー

(ポートランド州立大学都市及び公共問題研究カレッジ・副カレッジ長)「ポートランド州立大学におけるコミュニティ関与とコミュニティ・ベースド・ラーニングの歴史、哲学、原理」

14:45~

16:30

パネルディスカッション 司会:村田 和代(龍谷大学政策学部教授)

パネリスト セリーン・フィッツモーリス

(ポートランド州立大学全学教育課程上級インストラクターⅡ)「ポートランド州立大学の学部教育における全学教育課程のカリキュラムとコミュニティ・ベースド・ラーニング」

西芝 雅美(ポートランド州立大学行政学部長・准教授)「ポートランド州立大学の大学院教育におけるコミュニティ・ベースド・ラーニングのアプローチ」

エイミー・スプリング(ポートランド州立大学研究・戦略パートナーシップ コミュニティ研究・パートナーシップディレクター)

「コミュニティ・大学関係を促進するための戦略的アプローチ」

ジェニファー・アルケズウイーニ(ポートランド州立大学アカデミックイノベーションオフィス 学習・社会関与補佐)

「コミュニティ・ベースド・ティーチングとラーニングのための教員研修の支援」

京都アライアンスからのコメント山本 真一(京都文教大学総合社会学部 准教授)長光 太志(佛教大学 リサーチアシスタント)

閉会挨拶西芝 雅美

6

ポートランドはアメリカ合衆国オレゴン州に

位置する人口約60万人の都市で、その市内中心

部にポートランド州立大学(以下PSU)はあ

る。州内最多の学生数を有し、研究大学として

社会人学生や博士課程の充実に注力してきた。

このポートランド州立大学で、全学あげて

取り組むコミュニティ・ベース・ラーニング

(以下CBL)は国内外から注目を集めている。

学内には280を超えるさまざまなCBLプ

ログラムがあり、学生は地域に出向いて実践

的に学んでいる。

本シンポジウムでは、前半の基調講演で

1970年代後半から始まった大学改革の歴史

を説明し、後半のパネルディスカッションで学

部生・大学院生のCBLについて紹介された。

█開会挨拶、イントロダクション 

白石

克孝氏

京都アライアンスは、2008年から準備、

2012年から本格的に始まった大学発で作ら

れたプラットフォームである。

9つの大学や自治体、経済団体、NPOなど

京都府内の産学公民によって構成されている。

教育・研究に続く大学の第三の使命を果たす

ために、社会貢献を教育カリキュラムや、大学

の役割に組み込んでいく必要がある。具体的に

地域の中で取り組み、とりわけ人口減少などさ

まざまな課題がある京都府北部地域で課題解決

のためのプロジェクトをおこなっている。人材

を獲得していくことが困難な中小企業の活性化

プロジェクトもあり、「地域コミュニティ再生」

「地域経済再生」の2つをテーマとしたチャレ

ンジをおこなっている。

フィールドで学んだ学生たちに「地域公共政

策士」という資格を認証するスキームをつくっ

た。この資格は国家資格ではなく、鍵になるコ

ンテンツはコミュニティに根ざした能動的な学

習である。PSUは全学でCBLに取り組むこ

とで有名であり、日本においても先進地として

紹介されている。本日は、CBLの取り組みや

それを運営する仕組みについてお話をうかがえ

ることが喜ばしい。日本までお越しいただいた

ゲストの皆様に拍手を送りたい。

█基調講演 

サイ・アドラー氏

「大都市」大学としての位置づけ

オレゴン州には大学が30校ほどある。1970

年代に大きな課題に直面し、各大学がそれぞれ

のアイデンティティを確立し、他大学との差別

化を図ることが求められた。

PSUの改革は1978年から始まる。自ら

を「大都市」大学と定義して、専門職教育や大

学院教育に注力をおき、都市のコミュニティ研

究や社会貢献に取り組んだ。大学のアイデン

ティティを確立する過程で、当時の教職員から

地域との連携を強くするべきだと意見が出さ

れ、地域に近い大学として再スタートする。ノ

ハド・トゥーラン都市及び公共問題研究カレッ

ジ長は「PSU 1980年代の戦略的計画」

を作成し、ビジョンを達成するために包括的研

究大学をめざした。博士課程の講座を拡大し、

大都市圏や州の経済成長に貢献する研究を展開

する。

1985年に州議会は、PSUを包括的研究

大学に変更するための具体的な取り組みを求め

た。トゥーラン氏は、高等教育を地域に提供す

る大学の役割を念頭に置き、民間団体、企業、

NPOを結びつけていくことを示した。中でも

重要だったのはフォーラムの開催である。大学

という中立な立場をいかし、公務員や市民が政

策的な論点を議論する場を提供した。

1990年にはジュディス・ラメイリー学長

が、都市圏のさまざまなニーズに貢献する「大

都市」大学のモデルとして、PSUをさらに発

展させていった。その一つとして都市研究セン

ターを設立する。センターでは自治体・企業・

市民団体が実践的な共同研究をおこない、公共

サービスに関する地域課題を解決していった。

ポートランド大都市研究所は、州知事のコンセ

プトをもとに1992年に設立された。小規模

な地域のグループを研究や技術面から支援する

研究所で、地域課題を分析し、公共政策に関す

る議論をおこない、地方自治体と協力しながら

推進している。

カリキュラム改革

一方、大学理事会では、教職員の役割を変革

していくために昇進・任期に関する新しいガイ

ドラインを作り、CBLの活動を評価するよう

になる。

同時にカリキュラム改革も取り組まれた。

各学問分野に分かれる教授方法を学際的にす

るために、専門のバリアや大学と地域のバリ

アを解いていかなければらならないと考えた。

地域ニーズに応えるカリキュラムを作ること

で、そこで学生が学び、将来を担う人材に育っ

ていく。卒業しても学習を続けられるように、

大学に頻繁に戻ってきて新しいイノベーショ

ンについて学ぶことができる生涯学習も重要

だと考えている。

LORC ジャーナル 7

学習目標の設定と成果の指標化 

全学的な教育課程は次のようになっている。

1年生と2年生では、しっかりと学習目標を立

て、どれくらい達成できたかを明確にする。4

年生で受けるキャップストーンは、少人数の学

生が地域と一緒に取り組む授業で、PSUでは

全学生がこのキャップストーンを取らないと卒

業できない。

また、教職員や地域で活動する人々にサポー

トを提供し、さまざまな変革が起こしたインパ

クトを評価する仕組みを作った。学際的なチー

ムで明確な学習目標を設定し、ゴールが達成で

きたかを確認する。成果を指標化してすべての

教職員が関わる仕組みになっている。

中でも25年間続けてきたリサイクル活動は国

内外に高く評価され、学生やパートナー団体が

地域の人と一緒にリサイクルのプログラムを実

施している。

このように、PSUが地域への役割を示しな

がら、持続可能性、気候変動、レジリエンスに

おいて効果的な成果をあげている。京都府内の

大学・企業・自治体の連携をめざす京都アライ

アンスのチャレンジに期待している、と最後に

結んだ。

█パネルディスカッション

アドラー氏の講演を受け、1990年以降P

SUで取り組んできたプログラムやパートナー

シップ開発、キャップストーンを、どのように

実践しているのかについて、エイミー・スプリ

ング氏、セリーン・フィッツモーリス氏、西芝

雅美氏、ジェニファー・アルケズウイーニ氏を

パネリストに迎え話題提供がなされた。

話題提供① 

エイミー・スプリング氏

「コミュニティ・大学関係を促進するための戦略

的アプローチ」

CBLの研究とパートナーシップ開発におい

て、特にすべきことは、いかに地域にメッセー

ジを届け、コミュニティとどのようにつなげる

かであり、CBLを実践するにあたり、学問的

なアプローチをいかに行い、必要な実践と、い

かに変革していくかを考えることである。そし

て、同時にそれらをどのように評価をするのか

といった学術的な部分も重視している。PSU

では、様々なセンターや研究所がキャンパスの

中にあるが、スプリング氏は主に地域とのエン

ゲージや、地域に入っていく機会を与えるアセ

スメントワークに従事している。PSUには、

こうした学内の各ユニットや、それぞれの仕事

をつなぐパートナーシップカウンシルが存在す

る。それらがどのようなインパクトを作ってい

けるのかを考えることも仕事の一つである。ま

た、PSUでは、実験的なラーニングプログラ

ムに、インターンシップとして、学生をコミュ

ニティに送り込むことも行っている。このとき、

それぞれのカレッジで、CBLに関するに考え

方は異なっており、内容についても多種多様な

バリエーションがある。例えば、学生が地域の

プロジェクトに参加し、コミュニケーション

スタディデパートメントや、対人関係コミュニ

ケーションを行うが、内容としては、子供に関

わる問題、ホームレス、国際的な難民などの問

題、コミュニティ対人関係、コミュニケーショ

ンなどである。そして、最後にそうした経験を

もとに学生にはレポートを書かせている。他に

も、学生組織がプロジェクトを進める場合があ

る。ここでも、専門性を醸成するための教育や

実習を行う。その中には、地域の地方自治体と

一緒に行う活動やトレーニング、戦略的パート

ナーシップなどがあり、学部間や組織間、企業、

産業間などを繋ぎながら、学生がインターン

シップとして地域に入っていく。

8

話題提供② 

セリーン・フィッツモーリス氏

「ポートランド州立大学の学部教育における全学

教育課程のカリキュラムとコミュニティ・ベース

ド・ラーニング」

PSUでは、キャップストーンプログラムに

CBLを採用しており、このプログラムは、4

年間毎年行う教育カリキュラムである。そして

それらは、卒業要件ともなっている。これによっ

てオールマイティーな学者を養成している。そ

れぞれの年次でクリティカルシンキング、コ

ミュニケーション、多様性、倫理と社会的責務

という4つの目標を設定し、進めている。1年

生では、三つのクラスのセッションを経験させ

る。4年生のキャップストーンでは、よりCB

Lが深く展開される。そして、最終的にレポー

トの作成や、実際に助成金の申請などの成果物

を提出する。このとき、ほとんどが非営利団体

とのパートナーシップであり、意図的に小規模

のチームに分かれて取り組んでいる。地域に出

るにあたり、まず学内で書籍を読んだり、人を

呼んで話を聞く、統計をまとめる、などの準備

を十分に行う事が重要である。また、キャップ

ストーンを進めるには一方で教員の養成も必要

である。

話題提供③ 

西芝

雅美氏

「ポートランド州立大学の大学院教育におけるコ

ミュニティ・ベースド・ラーニングのアプローチ」

PSUでは様々なレベルでCBLを取り入れ

ており、都市部の大学の中核として専門職を育

てている。そして、公共経営修士、公共政策修

士など、専門職が取得する修士プログラムを提

供しており、それぞれの専門職分野において、

即戦力となるような人材を育てている。専門性

を養うには、実務に地域の問題に携わりながら

学ぶことが重要であり、その意味でCBLは有

効であるといえる。CBLのアプローチは多様

であり、大学レベルでも学部レベルでも、授業、

インターンシップ、実習、院生助手として仕事

をしながら行うもの、卒業プロジェクトとして

の学び、個人のプロジェクト、グループのプロ

ジェクトなど多様なプログラムがある。

そして、それらをそれぞれの教員に合った形

で授業科目、研究手法、プログラム評価、プロジェ

クト評価、事業評価の中に取り入れる。

また、教育実習などで、実際に体験させたり、

院生助手や、大学院生が教員のアシスタントと

してプロジェクトに参加する場合もある。

これらは、大学の様々なセンターが受け入れ

ており、時間給、授業料免除、手当てなど、様々

なサポートメニューもある。

話題提供④ 

ジェニファー・アルケズウイーニ氏 

「コミュニティ・ベースド・ティーチングとラー

ニングのための教員研修の支援」

アカデミックイノベーションオフィスでは、

CBLに関するサポート、学問の質についても

サポートしている。サービスの内容についても、

コンサルテーション、プログラムの提供、リ

ソースの提供など多岐にわたる。そして、CB

L担当教員への支援や、パートナーシップ評議

会の設置、キャンパスの中でどのような不公平

や問題点があるのかをすくいあげたり、大学の

ガイドラインの作成を行う。そして、どの学部

でも教職員がCBLを活用できるようにしてい

る。さらに、地域と大学を繋げるプロフェッショ

ナルを育成するため、CBLプログラムの戦略

的位置づけ、意思決定、学生の教育、コミュニ

ティへのベネフィットはどのようなものがある

のか、そして、行政による寄付や支援の制度が

あるのかなどを考えている。

セッション

村田氏により、日本ではまだCBLの実践の

歴史は浅く、どのように応用するべきなのかを

知るため、2016年2月にLORCとしてP

SUを訪問し、ワークショップを通じて、詳し

い経緯を聞いた旨が紹介された。

█京都アライアンスからのコメント

セッションを受け、ここまでの話題提供を受

け、京都アライアンス長光氏から地域とエン

ゲージするためのプロジェクトを行うにあた

り、地域側からの依頼はないのか、また、ベネ

フィットをどう設計するのか、時には地域の耳

に痛いことが出る場合があるかもしれないが、

その場合の対応はどうするのかについて質問が

あった。これについて、PSU側より、事前に

十分な調査を行い、地域のパートナーと調整す

るが、プログラム自体がCBLには合わないと

いう場合も出てきうる。このため、地域側の一

定の忍耐も必要であり、どのプログラムがどの

学部に合うのか、教員が考え、学内で調整を行っ

ていく必要があるとの回答がなされた。

次に山本氏より、カリキュラムと実際のCB

Lの関わりについて、キャップストーンは年次

ごととなっているが、4年間の長期にわたって

身につけられるのか、また短期に身につけられ

るものは何があるのか、また、複数の教員の連

LORC ジャーナル 9

携をどのようにしているのかについての質問が

あった。これについて、学期を通して、何を学

んだか、評価を行うことや、教職員によっては、

論文を書くように指導すること、また、活動を

通してどのように学びが深まったか、4つの

ゴールを設定し、評価を行い、このとき合わせ

て、他の教員の評価ペーパーを互いに読んでし

合うとの回答がなされた。

また、修士と学士の違いについては、修士論

文に変わるプロジェクトとして、学生とコミュ

ニティの人とアドバイザーの教員の三者で、ど

のような内容でどのような学びがあるかを決

め、学生は自分が選んだ科目がそのプロジェク

トに関わったか、それが修士レベルにあるかを

アドバイザーの先生が判断し、必要な場合は他

の教員にも相談するとともに、学生はゴールを

作って何が達成できたかを10の項目の《ルーブ

リック》に合わせて評価し、実際の成績を出し

ているといった手法が紹介された。

最後に村田氏により、京都アライアンスで

は、地元中小企業などもパートナーとしてアク

ティブ・ラーニングを取り入れているが、PS

Uではどうか、また、プロジェクト・ベースド・

ラーニングや、サービス・ラーニングとの違い

はどこにあるのかについての質問があった。こ

れについて、CBLはNGOやNPOとの連携

を想定しがちだが、例えばビジネスセクターと

の連携もあり、そうしたプログラムもキャップ

ストーンの中にはある事が紹介された。また、

基本的にPSUではCBLと呼ぶことにしてお

り、パートナーの方と対等であると捉えている。

そしてCBLは、サービスやボランティアの

ように何かを一方的に与えるということではな

く、コミュニティとギブ&テイクの関係である

事が重要であるとともに、パートナーシップが

重要であり、幅広い概念を包摂することが必要

であるとの回答がなされた。そしてまた、西芝

氏はCBLのシステムを作る際には、柔軟性を

持った制度を作ることが必要であると述べた。

█閉会の挨拶

最後に西芝氏より閉会の挨拶があった。PSU

の取り組みを学部やセンターの取り組みから紹介

させていただいたこと、PSUが試行錯誤しなが

らやってきたプロセスを大切にしてCBLに取り

組んできたことに触れ、日本の大学でも、そうし

て進めて来られ、我々と対話をしていただいたこ

とを元に、これからよりよいものにしていきたい

旨が語られ、本シンポジウムは閉会した。

10

年月日:2016年12月12日(月)

会 

場:深草町家キャンパス、亀岡農業公園、

農地ソーラーシェアリング圃場、畜産堆肥製造

場(亀岡土づくりセンター)、丹山酒造

シンポジウムの翌日、現地エクスカーション

として、龍谷大学深草町家キャンパスおよび、

京都府亀岡市において、ポートランド州立大学

教員、龍谷大学教員、学生、サポートスタッフ

らを交え、視察を行った。

█龍谷大学深草町家キャンパス

龍谷大学深草町家キャンパスは、龍谷大学

が、町家の利活用を通じて、地域社会と連携を

図りながら、

教育・研究上の成果や学内資源を

地域に還元し、地域に開かれた大学として、地

域社会と共に発展することを目的として設置

された。

視察では、初めに1階の「みせ」と呼ばれる

部屋で、この建築物が建設されたのが150年

以上前であること、当時は呉服屋として利用さ

れていたこと、などの建築物の沿革について説

明を受けた。次に1階と2階の各部屋や庭を回

りながら、各部屋に建築物としてどのような特

徴があるか、各部屋がどのように使用されてい

たか、などの建築物の特徴について説明を受

けた。最後に1階の「ざしき」で、建築物の修復、

現在の管理、大学と地域の交流といった使用

目的などの建築物の詳細について説明を受け、

ひいてはCBLのあり方について議論が行わ

れた。

█亀岡カーボンマイナスプロジェクト

京都議定書の採択を受け、亀岡市は、2009

年1月に亀岡市地球温暖化対策地域推進計画を

策定し、2018年に1990年度比で10%の

温室効果ガスの削減を目指す目標を打ち出し

た。そして、市民、事業者、行政が一体となっ

て削減に取り組んでおり、目標達成に向けて、

山林、農地などのバイオマス資源豊富な亀岡市

の特性を活かした、より有効な温室効果ガス削

減手段の提示が求められた。これらを背景に、

2008年11月から地域住民、亀岡市、龍谷大

学LORC、立命館大学地域情報研究センター、

地元関係機関などの連携のもと、バイオ炭によ

る炭素貯留を通じた温室効果ガスの削減と都市

部から農山村部への資金還流を両立させるしく

みの構築を目標とする„亀岡カーボンマイナス

プロジェクト“として始動した。現在は、放置

竹林の竹を伐採したものを焼成し、炭にして、

亀岡現地エクスカーション

 

報告 

ポートランド州立大学共催国際シンポジウム

龍谷大学深草町家キャンパス視察の様子

LORC ジャーナル 11

農地の土壌改良剤として活用することで、炭素

を地中に戻すなどの取り組みを行っている。そ

の農地で育った野菜を「クルべジⓇ」と呼び、

地元スーパーでの販売や、小学校の給食でも使

われている。また、亀岡の農地で削減した炭素

量について、都会の会社などが削減できない分

を買ってもらう仕組みづくりなども行って

いる。これらの取り組みは、現在京都府の

「一ひ

まち一ひ

キャンパス」の取り組みとして、

地域と大学(龍谷大学、立命館大学、京都学

園大学)、行政、農業者、地域住民、地元小中

学校といった、各ステークホルダーらが主体的

に関わりながら同プロジェクトを進めている。

①農業ソーラーシェアリング

ソーラーシェアリングとは、農地に支柱を立て

て上部空間に太陽光発電設備等の発電設備を設置

し、農業と発電事業を同時に行うことを言う。農

林水産省では、この発電設備を「営農型発電設備」

と呼んでいる。亀岡農業公園傍のソーラーシェア

リング圃場にて、太陽光発電の実証実験と、クル

ベジの生産、流通による経済効果などの研究を大

学の現地プログラムとして行っている立命館大学

OIC総合研究機構教授、一般社団法人日本クル

ベジ協会会長の柴田晃氏によるレクチュアが行わ

れた。その中で、これまで農地への太陽光発電設

備等の設置は、支柱の基礎部分が農地転用にあた

るとして認められてこなかったが、農地における

農業の適切な継続を前提に、これを「一時転用」

として認められることとなった。これによりソー

ラーシェアリングを行うことが可能となった点

や、ソーラーパネルの下でトラクターを入れての

農作業が可能である点、また、ここでは様々な種

類のクルベジを生産する実験を行っているのだと

いった内容が説明された。

②畜産堆肥製造場(亀岡土づくりセンター)

次に、農業公園内にある堆肥製造場を見学し、

放置竹林の竹を伐採し、焼成、炭化させた竹炭を

堆肥に混ぜ込み、農地に埋設することで、CO2

の削減につなげるクルベジの生産工程について、引

き続き柴田氏によるレクチュアを受けた。

③丹山酒造

市内丹山酒造にて、酒蔵を見学するとともに、

現在亀岡クルベジ育成会と地元丹山酒造が連携

し、先述の炭素埋設農法(二酸化炭素削減農法)

により生産された山田錦(クールライス)を用

いて醸造した吟醸酒の製造過程について杜氏よ

り説明があった。丹山酒造は創業133年の歴

史を持ち、自家製酒米を用いて醸造している亀

岡市内の酒蔵であり、広く酒づくりオーナーの

募集を行い、本プロジェクトをPRしている。丹山酒造における杜氏によるレクチュアの様子

ソーラーシェアリング中央圃場での現地視察の様子

12

CBLサポートスタッフのためのワークショップ

 

報告 

ポートランド州立大学共催国際シンポジウム

日 時 2016年12月13日(火)14:00~16:30

会 場 龍谷大学深草キャンパス 22 号館 305 教室

参 加 約 30 人

主 催龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)大学間連携共同教育推進事業「地域資格制度による組織的な大学地域連携の構築と教育の現代化」

共 催 ポートランド州立大学

1. 概要

2. プログラム

時 間 プログラム

14:00~

14:30

開会挨拶村田 和代(龍谷大学政策学部教授)

プレゼンテーションエイミー・スプリング

(ポートランド州立大学研究・戦略パートナーシップ コミュニティ研究・パートナーシップディレクター)

14:30~

15:50

アイスブレイクジェニファー・アルケズウィーニ

(ポートランド州立大学ポートランド州立大学アカデミックイノベーションオフィス学習・社会関与補佐)

ワールドカフェセリーン・フィッツモーリス

(ポートランド州立大学全学教育課程上級インストラクターⅡ)

アカデミック・プロフェッショナルによるサポート方法について、4つのテーマに分かれてワークショップ

15:50~

16:30

振り返り飯迫 八千代

(ポートランド州立大学パブリックサービス実践・研究所 国際プログラムコーディネーター)

閉会挨拶白石 克孝

(龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)センター長)

名刺交換タイム

LORC ジャーナル 13

CBLとは何か?

まず、PSUの取り組みを理解するために、

エイミー・スプリング氏からCBLの紹介が

あった。

教授法のひとつであるアクティブ・ラーニン

グは、学生が主体的かつ能動的に学びながら問

題解決やクリティカル・シンキングに関する能

力を向上する効果があると言われている。この

アクティブ・ラーニングに含まれるCBLとは、

学生の学問的な学びと地域の関わりを融合させ

ることを意図した教育理論である。講師と学生、

そして地域団体の有益なパートナシップに基づ

いている。

目的はボランティアの育成ではなく、地域に

入った学生が意図的な意思決定ができるように

することにある。教職員、学生、地域が互いに

有益な学びをし合う教授法である。

今日のワークショップでは、CBLにおける

アカデミック・プロフェッショナルと呼ばれるス

タッフの役割について理解を深めてもらいたい。

アカデミック・プロフェッショナルの役割

ジェニファー・アルケズウィーニ氏によるア

イスブレークに続いて、続けてスプリング氏か

らプレゼンがおこなわれた。

ワールドカフェ形式でおこなった「アカデ

ミック・プロフェッショナルによるサポート方

法について」では、セリーン・フィッツモーリ

ス氏からワークショップのポイントについて説

明があった。ここでは対話が重視されること、

異なる意見を学び合い、すべての人が話すこと

が重要である旨が話された。

参加者は、①カリキュラム構築と学生サポー

ト、②コミュニティ団体とのパートナーシップ、

③CBLの運営管理とリーダーシップ、④アカ

デミック・プロフェッショナルのポジションと

は、という4つのテーマにわかれて議論をおこ

なった。どれも興味深いテーマで、参加者は時

間制で二つのテーブルを回り、講師の説明に熱

心に耳を傾けながら質疑応答をおこなった。最

後に各自の学びを模造紙に記入した。

以下、各テーブルでのディスカッションにつ

いてまとめる。

「コミュニティとのパートナーシップ構築」

ジェニファー・アルケズウィーニ氏

参加者の関心事項を中心に話がすすめられ

た。大学とコミュニティのマッチングは、対面

での「お見合い形式(speed dating

)」と呼ば

れる方法で設定する。アメリカではよく使われ

るが、時間制で交替しながら相手と話し、意気

投合した相手とさらにカフェを飲みながらじっ

くり話す形式である。コミュニティ側にはさま

ざまなニーズがあり、教員側にはリソースがあ

る。アカデミック・プロフェッショナルは、で

きるだけ多くの教員がマッチングの場に参加す

るよう働きかけている。今後は、お互いにデー

タベース化して事前に情報を確認できるように

していきたい。

イベントで情報を共有したり、賞を設けて表

彰する、コミュニティ側からトレーナーとして

来てもらうなどの方法を取っている。コミュニ

ティ・パートナーは学生の学びについても知り

たがるので、教育者の一人として一緒に入って

もらうために、学生の学びが深まるようプレゼ

ンやレポートの内容も見てもらっている。ある

いは、コミュニティ・パートナーとよい連携を

築くために、大学スタッフがワークショップを

ともにおこなって課題やゴールを共有し、どう

すれば学生とうまくCBLを進められるかをト

レーニングすることもある。学生の生活時間、

指導方法なども予め知っておいてもらいたいの

でこの時に学んでもらう。

学生とコミュニティ・パートナーの間に問題

がある時は、教員に相談することが多い。しか

し、コミュニティ・パートナーと教員の間に問

題がある場合には、スタッフに相談する。その

14

てコミュニティに何を貢献できるか考えること

が重要となる。例えば、数学なら助成金の計算、

英語学なら文章を書くことなど。振り返りには

学習と実施したサービスを結びつける役割があ

り、ルーブリック評価のあと、学生による自己

評価を20%採り入れて成績に反映している。学

生は厳しい自己評価をおこなっている。

「CBLの運営管理とリーダーシップ」

エイミー・スプリング氏

PSUでは280を越えるプログラムCBL

が全学的に実施されているが、これらのインパ

クトをどのように評価するか。CBLでの学び

をきっかけにした学生の就職数や、コミュニ

ティの評価による。評価のためのデータ収集は、

コミュニティのパートナー、学生、教員に対し

てアンケートやヒアリングを実施している。全

学的な取り組みを推進するには、大学内でCB

Lやそのような取り組みについて、情報を共有

することが重要である。

全体のまとめ

ワークショップの最後には、飯迫氏が全体の

ふりかえりをおこなった。テーブルに並べられ

た写真カードを各自が取り、選んだ理由を今日

のテーマにつなげる形で紹介し、参加者で共有

した。

場合は両者の間に入って関係の修復にあたる。

コミュニティ・パートナーと教員はシラバス

の共有、学習内容、アウトカムを共有している。

アカデミック・プロフェッショナルと教員の役

割分担はあまり明確ではないが、CBLの立ち

上げ時に教員とコミュニティ・パートナーの関

係づくりを支援する。年数が経過して軌道に乗

るとアカデミック・プロフェッショナルは手を

放し、新規CBLの支援をする。

「アカデミック・プロフェッショナルのポジション」

飯迫八千代氏

アカデミック・プロフェッショナルはアメリ

カの大学教員の労働組合に所属し、資格はなく

カテゴリーに分かれている。飯迫氏以外の3名

の講師はCBLを専門としている。飯迫氏は、

行政学のコースで国際連携のCBL、アジア(主

に、日本、韓国、中国)のプログラムを担当し

ている。ネットでの自宅勤務、現場への同行な

ど仕事の進め方が日本とは異なる。

アカデミック・プロフェッショナルは、CB

Lプログラムの管理が業務となり、予算管理や

事業評価もおこなう。スタッフの中には講義を

担当する人もいて、教員のサポートをしながら、

新規CBLの立ち上げも支援する。

PSUのアカデミック・プロフェッショナル

は、40年前の開始当初にひとりの教員が立ち上

げた。当時は3名程度だったが、現在では30名

になっている。

「カリキュラム構築と学生サポート」

セリーン・フィッツモーリス氏

フィッツモーリス氏が担当するCBLプログ

ラムでは、16名の学生が4テーマに分かれて取

り組み、履修経験をもつ卒業生がスタッフとし

てサポートしている。学生が何を学べるかゴー

ル設定を考慮してシラバスをつくり、アウトカ

ムは教員が設定している。

学生はCBLをマイナー(副専攻)として取

るが、それぞれのメジャー(主専攻)をいかし

LORC ジャーナル 15

The Sanpuku Action: Social Designing Satoyam

a Tea Transform

ations in Pinglin, Taiwan

█講演会

2017年1月25日、国立台湾大学大学院准

教授のShenglin Chang氏の講演会が開催され

た。Chang

氏は近年、台北の茶畑をフィール

ドに、エコロジカルな茶の生産と流通を図りな

がら地域再生を試みている。

Chang

氏は、国立台湾大学が台湾の坪林

(Pinglin

)という地区で実施している「山不枯

(Sanpuku

)」という茶の生産の活動について報

告した。

坪林プロジェクトは2011年に2人の学生

と1人の教員によって開始された。坪林が選ば

れた理由は、台北に近く、元来、茶業が盛んだっ

たことである。昨年(2016年)までの5年

間に、坪林プロジェクトは、50人を超える学際

的な教員と1000人近い学生が参加し、2社

の社会的企業が設立される規模に拡大した。本

年(2017年)春から、国立台湾大学・坪林

モデルとして、台湾の全166大学の中で2つ

しかない域学連携モデルの1つになる。プロ

ジェクトの初期に国立台湾大学のチームは日本

の各地を視察した。兵庫県の豊岡市では自然を

回復させるのに半世紀という長期間を掛けたこ

と、高知県の馬路村ではゆずを特産品として農

村の経済を変革させたことなどを学んだ。

そこで、茶業を通して、イノベーションを起

こし、生態系を改善し、文化に影響を与え、農

村を再活性化できないかと考えた。そして、坪

林で生産した無農薬の茶を「山不枯」というブ

ランドで販売することを開始した。この取り組

みは、次第に注目を浴びるようになり、マス・

メディアに取り上げられるようになった。その

際に、人文系の教員と社会科学系の教員が協力

して、茶の生産と消費、歴史、種類、製法など、

茶の包括的な研究を進めた。今も、多数の学際

的な教員が協力してコースを設置し、大学とコ

ミュニティの交流が続いている。この活動は、

カリキュラムの改革など、社会に影響を与えて

いる。域学連携は、台湾の大学にとって喫緊の

課題となっている。

意見交換では、坪林プロジェクトは短期間で

発展しているが、なぜそれができたのか、とい

う質問が出た。これに対してChang

氏は、大

学の執行部が支援したこと、多数の教員が努力

したことを挙げた。その上で、当初、関わって

いた教員はわずか8名だったことを紹介し、あ

る教員が、夏休みをかけて当時、関わっていた

教員一人ひとりと話し、大学の執行部を説得し

たこと、その後、教員たちが協力して提案し、

大きなチームになったことについて説明した。

また、学生は教室で何を学ぶのか、という質

問が出た。Chang

氏は、コースによるが、教

室で学ぶことは、社会的企業をどのように始め

るか、コミュニティとの関係をどのように発展

させるか、などであると答えた。そして、教科

書や資料は必ずしもなく、読書から始めるわけ

ではなく、重要なのは、コミュニティに行き、

どのような問題があるか、探索することである

と考えていると述べた。さらに、学生はどれく

らいの時間を掛けなければならないのか、とい

う質問が出た。Chang

氏は、学生はたくさん

の時間を掛けなければならず、選択科目では、

選択したのは学生であるので、時間を掛けなけ

ればならなくなるのは学生の責任であるが、必

修科目では、学生がどのように行動するか、指

導するのも重要となる、と答えた。

政府や自治体の支援についての質問に対し

て、Chang

氏は、基本的には、政府や自治体

の支援は、受けていない、と答えた。それによ

れば、政府や自治体の支援は、必ずしも永続的

でないという意味で、不安定である。そこで、

むしろ、社会的企業を設立し、みずから資金を

得ようと考えている。最近は、工場や教場を建

設するために政府の資金を得たことはある。ま

た、政府の教育関係の部署から教育改革の予算

 

報告 

台湾研究会

 

報告 

第1研究班「限界都市論」研究班講演会

16

を受けている。

教員のトレーニングについての質問に対し

て、Chang

氏は、CBLは学生より教員にとっ

て難しいと考えていると述べ、教員のための

ワークショップを開催し、どのようにコミュニ

ティに入るか、学習させ、みずからの弱点を認

識させ、不確実なことに対応する心の準備をさ

せている、と答えた。このCBLの意義につい

ての質問に対して、Chang

氏は、農村地域の

衰退は世界共通の問題であること、この課程を

通して学生にイノベーションの能力を身につけ

させようとしているが、実際に企業を始める卒

業生はごく一部に過ぎないこと、ただし、こ

のような経験を学生に積ませることは重要であ

る、将来、学生の役に立つことがあるかもしれ

ないと考えていることを説明した。

最後に、各コースの期間はどれくらいか、単

位はどのようになっているか、という質問が

出た。Chang

氏は、基本的に1セメスターで、

複数の教員によって教えられること、単位は

コースによって様々で、最近、新しい制度がで

きて、長期休暇中に集中講座を行い、教員が単

位を決めることができるようになったことを回

答した。

█現地視察

研究会を受け、日本における茶の生産、歴史、

栽培法、製法などについて、京都府宇治地域で

の現地視察を行った。この中で、温室や温床な

どの特別の設備を使わず露天の耕地で主に煎茶

用の茶葉を栽培する露ろ

地じ

栽培と、茶の木に覆い

を施した茶園で、主に玉露用の柔らかく上質な

葉が得られる覆お

下した

栽培の二種類、三箇所の茶園

を視察した。

年月日:2017年1月26日(木)

場所:

①南山城村

高尾

 

縦畝茶園、尾根沿いの茶園と集落景観:

 

露地茶園

②和束町

 

・石寺(山なり茶園ほか):露地茶園

 

・和束町内茶園

 

・和束茶カフェ(交流拠点、茶のテイステ

  

ィング)

③城陽市 

 

・上津屋(河川敷):覆下茶園

LORC ジャーナル 17

世界的に進みつつある職業能力の標準化

█研究会の概要

2017年2月27日龍谷大学深草学舎にて、

研究会「世界的に進みつつある職業能力の標準

化」を開催した。これは、本ユニットの課題で

ある地域公共人材に必要とされるソーシャルス

キルを明らかにすると共にそれを大学生に涵養

するためのプログラムを研究することを目的

に、世界的に進みつつある職業能力の標準化を

テーマに議論を交わした。

研究会の結果、本ユニットは来年度にソー

シャルスキルを個人レベルの議論とスキルを醸

成する空間などの観点から定義を決めること

や、職業教育の開発が先進的に進むオーストラ

リアの調査を検討することになった。

█講演

①志田秀史氏

「若者の雇用を取り巻く背景と世界に進みつつ

ある職業能力の標準化について」

若年者に向けた政策は1980年代の欧米

から始まった。最初は若者の就労斡旋だった

が、若者への短期職業訓練(6ヶ月以内)とな

り、積極的労働市場政策(教育・訓練・福祉の

統合政策)が必要だと指摘がなされた。日本に

おいても積極的労働市場政策は2000年以降

に対策が始まっている。日本における積極的労

働市場政策は2000年以降に対策が始まり、

2006年に中央教育審議会答申(2003年

3月)が反映され、「教育基本法改正」による

職業教育の重要性が盛り込まれた。

主な高等職業体系についてオーストラリア、

韓国、日本、アメリカ、中国、フランスの6

カ国を挙げた。高等職業教育体系については

「単線化方式」と「複線化方式」がある。「単

線化方式」は、韓国(学術教育学位と職業教

育学位)、アメリカ(学術教育学位と職業教育

学位(応用学士、准学士))、中国(職業資格

証書、学歴証書)、フランス(学術教育学位、

職業教育学位)となっている。「複線化方式」

はオーストラリア(学位(D

egree

)と修了

資格(D

iploma

))である。日本は学術教育

学位と職業教育称号そして専門職大学の3つ

となっている。

現在の各国家資格枠組み作成の手順につい

て、各国はEU標準資格枠組み表を参照し、

各国独自の「国家資格枠組み」を制定し、分野

別のものを作成する。2017年1月28日に九

州大学で開催されたEast Asia Sum

mit

におけ

る教育部門の国際会議において、東アジア18カ

国の一部からは資格枠組み作成について、産業

界と共同で時間をかけて少しずつ進めていくこ

とが重要であると発言があった。

2015年時点の各国における国家資格枠組

みの策定状況は、『独立行政法人労働政策研究・

研修機構2012資料シリーズ 

諸外国におけ

る能力評価制度』によると、制定済みが12カ国・

地域、開発中が15カ国・地域、検討中が21カ国・

地域となっている。日本は他のアジア諸国に比

べて資格枠組み作成を進めることが難しい。他

のアジア諸国は大学制度と資格制度の双方が比

較的未熟だったために一緒に制度をつくること

ができた。一方、日本は学術教育が確立した

高等教育に職業教育を入れようするために進

みにくい。

最近では東アジア諸国で職業教育の開発に関

するアイディア・知識・実績・経験などを促し

共有するために、日本も参加している東アジア

技術職業教育訓練事業者ネットワーク(East

Asia Summ

it TVET Provider Netw

ork

)が設

立され、会合が開かれている。今後のさらなる

交流が期待される。

 

報告 

台湾研究会

 

報告 

第2研究班「ソーシャルスキル育成」研究ユニット研究会

18

②大石尚子氏

「EUにおけるソーシャル・イノベーション醸

成政策(イギリス調査報告)」

ソーシャル・イノベーションをめぐる課題を

第1にソーシャルスキル(コミュニケーション

スキル)育成のための体系的教育プログラムを

どうつくるのか、第2にソーシャル・イノベー

ション醸成のエコシステムの構築という点をあ

げて、EU政策にみられるソーシャル・イノベー

ション政策を探った。

EUのソーシャル・イノベーション政策にお

いて強調されていることはシステミック・イ

ノベーションの必要性である。社会的企業や

NPOといった個人から発せられるイノベー

ションだけでなく、政策制度の観点で相互に

結びついていくイノベーションが重要だと指

摘されている。具体的な機関としてYoung

Foundation

(教育的不平等へのアプローチお

よび新しい教育分野の社会的ベンチャーのた

めのインキュベーション)、Nesta...

(ソーシャ

ル・イノベーションの研究機関)、Im

pact H

ub

(市民レベルのソーシャルイノベーショ

ンネットワーク)などの先進的な取り組みが

あった。

この議論を地域公共政策士とリンクさせる

ならば、ソーシャル・イノベーションを取り

巻く人材の評価基準はない。Im

pact Hub

の経

験として、地域公共政策士はN

on- in formal

Education

の範疇に入る可能性がある。ソー

シャル・イノベーター、アクセルレイター、イ

ンターン、コーディネーターと言われる人の必

要なスキルとは何かを見ていくことが重要なの

ではないかと考える。

③久保友美氏

「教育改革ICT戦略大会報告」

教育改革ICT戦略大会は、2016年9月

6日(火)から8日(木)にかけてアルカディア

市ヶ谷にて、「教育の質的転換に向けた内部質

保証を考える」をテーマに開催された。

前橋国際大学は、専任教員33名全員がアク

ティブ・ラーニングに取り組んでいる。ALの

質保証としては、エビデンスベースドで、その

エビデンスを学習者本人がつくっている。可視

化評価システムはICTを活用しており、イン

ターネット上で閲覧できる。KCGプラスとい

うシステムでは、学習者のポートフォリオを外

部の人も閲覧が可能となっている。就職活動に

活かせる仕組みとなっている。

LORC ジャーナル 19

塔下新池ため池ソーラー発電所 

稼働開始

「地域還元型再エネ政策」研究ユニットでは、

再生可能エネルギー事業の利益が地域に還元され

るモデル構築を目的に、これまで自治体のエネル

ギー政策や事例調査の研究を進めてきた。その成

果として、このたび兵庫県洲本市において、農業

用ため池を活用した太陽光発電事業を開始したた

め報告する。

洲本市のある淡路島は年間降雨量が少ないた

め、大小多くの農業用ため池が点在する。これら

を地域資源として活用し、ため池を保全しつつ新

しい価値を創出するために地域還元型の再エネ事

業を検討してきた。

2016年11月、洲本市、淡路信用金庫、淡陽信

用組合、龍谷大学LORC、PS洲本の5団体で「地

域貢献型再生可能エネルギー事業の推進に関する協

定」を締結した。第1号施設として、洲本市が所有

する洲本市五色町鮎あ

原はら

塔とう

下げ

のため池にソーラーパネ

ルを浮かべる発電事業を計画。白石克孝教授(LOR

Cセンター長)らが設立したPS洲本株式会社が事

業主体となり、協定を結んだ2行から融資を受けた。

また、洲本市と龍谷大学が取り組む域学連携事

業で、政策学部生が浮体に取り付けたパネルを水

面に浮かべる設置工事を手伝った。2017年1

月30日に執り行われた「塔下新池ため池ソーラー

発電所竣工式」では、事業報告や政策学部生がデ

ザインした看板が披露され、地域と大学による協

働成果を祝った。

施設維持管理の一部はため池を管理する田た

主ず

(農家12戸)に業務委託され、売電収入から経費

を差し引いた利益の年間約50万円が洲本市の農山

漁村活性化策に使われる。

設置工事を手伝う学生

竣工式での看板除幕の様子

塔下新池ため池ソーラー発電所 概要出 力/72.8kW年間発電量/86,000kWh(約24世帯の消費電力相当)パネル枚数/280枚

施設面積/1,000m²売電開始/2017年1月事業主体/PS洲本(株)

 

報告 

第2研究班地域還元型再エネ政策研究ユニット

20

  

研究活動報告

     2016年度後期の各班・ユニットの研究活動報告

第1研究班「限界都市論」研究班は、「空間計

画・機能」研究ユニットと「地方政府・ガバニン

グ」研究ユニットによって構成されている。昨年

度に引き続き、両ユニットは一体となって活動し

ている。

①叢書の刊行(2017年3月刊行予定)

叢書の刊行を目指して研究会を重ねた。

②「仮想的30万人都市圏連携施策」にかかる調査

の受託

総務省委託事業「新たな広域連携促進事業」

の一環として、舞鶴市から総務省委託調査「仮

想的30万人都市連携施策」にかかる調査を一

般社団法人京都府北部地域・大学連携機構(C

UANKA)と共同で受託した。

③研究者の招聘(2017年1月25日・26日)

2017年1月25日に国立台湾大学のShenglin

Chang

氏を招き、講演会を開催した。26日に京

都府南部地域を視察した(詳細はP16~P17

参照)。

④調査

 (1)京都府庁へのヒアリング(2016年8月19日) 

京都府における地理情報システム(GIS)の

利用について調査するのを目的として、京都府

庁でヒアリングを行った。

(2)イギリス調査(2016年9月6日~15日)

2016年7月にイギリスの首相が交代した

のを機に、キャメロン前政権の地方自治政策やコ

ミュニティ政策を総括するのを目的として、イギ

リスで調査を行った。訪問先は次の通りである。

シェフィールド・シティ・リージョン、ロザラム・

メトロポリタン・バラ・カウンシル、チェスター

フィールド・バラ・カウンシル、シェフィール

ド大学、ザ・ケア・アンド・ウエルビーイング・ファ

ンド、インベスティング・フォー・グッド、ブリッ

ジズ・ベンチャーズ

(3)京丹後調査(2016年12月22日・23日)

京丹後市におけるエネルギー政策や地域と大学

の連携について調査するのを目的として、京丹後

市で調査を行った。訪問先は次の通りである。

京丹後市農林整備課、京丹後市環境バイオマス

推進課、

京丹後市エコエネルギーセンター、宇

川アクティブライフハウス、宇川加工所、今里

田、シェアハウス

第2研究班「政策実装化」研究班「コミュニ

ケーションデザイン」研究ユニットの今年度の

活動は、①「話し合い学」の構築に向けた研究、

②コミュニケーションデザインや、コミュニケー

ションの観点からのソーシャルスキル析出につ

ながる調査・研究に大別される。2016年度

後期の研究の進捗状況は次の通りである。①に

ついては、同志社大学大学院総合政策科学研究

科で開講の、「NPOと行政等の協働実践演習」

をフィールドに情報収集を進めている。②につ

いては、ソーシャルスキルに関して、第2研究班

ユニット2と合同で、京丹後PBL/ソーシャル

スキル研究会を継続的に開催している。

①「話し合い学」の構築に向けた研究

現在、同志社大学大学院総合政策科学研究

科で開講の、「NPOと行政等の協働実践演習」

第1研究班

第2研究班・ユニット1

チェスターフィールド・バラ・カウンシル本会議の様子

LORC ジャーナル 21

の協力のもと、話し合いの現場のエスノグラ

フィーや談話収録を行っている。本演習は、

公共セクターの新たな担い手であるNPOや

社会的企業、行政機関等で働く現場職員から

「新しい公共とその担い手」についての具体

的事例や政策を学び、多様な主体が協働しな

がら地域課題を解決していく過程を実践的に

学ぶ、というものである。今後、エスノグラ

フィーで得た情報や話し合い談話の分析を通

して、政策形成やまちづくりをめぐる話し合

いにみられる課題をみいだし、イノベーション

につながる話し合い、質の高い話し合いとはど

のような話し合いかについて考察を進める予定

である。

また、これまで進めてきた話し合い学の研究

成果として『シリーズ 

話し合い学をつくる』

を出版する。第1巻目は、2015年1月に開

催したラウンドテーブルをベースにした『市民

参加の話し合いを考える』で今年3月に出版の

予定である。

②コミュニケーションデザインや、コミュニ

ケーションの観点からのソーシャルスキル析

出につながる調査・研究

第2研究班ユニット2と合同で、京丹後P

BL/ソーシャルスキル研究会を継続的に開

催している。さらに、京都府北部での実装化

につながるコミュニケーション(ミクロ・メ

ゾレベル)の観点からの調査・研究について

検討中である。

第2研究班「政策実装化」研究班「ソーシャ

ルスキル育成」研究ユニット(ユニット2)は、

地域社会の変革に向けて、政策実装化に必要

なソーシャルスキルの定義と具体的な析出か

ら、一連のシステム構築のための研究を展開

している。

①平成28年度教育改革ICT戦略大会(2016

年9月6日)

アルカディア市ヶ谷において共愛学園前橋国

際大学による学習アウトカムの可視化の取組や

信州大学でのPBL教育の効果等についての情

報を収集した。

②台湾調査(2016年9月16日~9月19日)

台中の桃米里や藍城社区でのコミュニティを

基盤とした人材育成、台南での大学/地域連携

による教育プログラムの展開等について調査を

行なった。

③研究会(2017年2月27日:詳細はP18~

P19参照)

九州大学の志田秀史准教授を講師として迎

え、世界的に進みつつある職業能力の標準化や

ソーシャルスキル育成につながる職能枠組みに

ついて議論した。

本年度はさらに第2研究班ユニット1ととも

に「京丹後/ソーシャルスキル研究会」を開催

し、京都府京丹後市においてアクティブ・ラー

ニングを受講している学生の学びと成長を定点

調査することにより、ソーシャルスキルの析出

を試みている。来年度は引き続き、限界都市化

に抗するための地域政策実装(政策開発と人材

育成との結合による政策の実現)において鍵を

握るソーシャルスキルを析出し、人材育成の体

系化を進める。

第2研究班「政策実装化」研究班「地域還元

型再エネ」研究ユニットの今年度の活動は、前

年度に引き続き、社会的投資に関する研究や再

エネの地域実装や自治体新電力の推進に関して、

そして、行政と大学や地域金融機関、地元住民

や商工会といった地域主体よる連携の中で、そ

れぞれがどのような役割を担うべきなのかにつ

いて議論を重ねてきた。そうした中、以下のよ

うな活動を実施した。

①洲本市塔下地区ため池ソーラー発電にむけた

話し合い(2016年6月23日)

②小田原市役所、小田原箱根エネルギーコン

ソーシアムへのヒアリング調査(2016年8

月31日~9月1日)

③塔下新池ため池ソーラー発電所の運転開始

(2017年1月30日:詳細はP20参照)

④滋賀県広域連携電力会社に関する情報交換会

(2017年1月31日)

守山市役所にて、滋賀県内自治体の担当者を

交え、電力自由化以降の滋賀県内の新電力会社

への対応や、自治体が関与した広域連携型電力

会社についての情報交換会を行った。

北九州市門司地区にて、連携事例を視察し、

2018年度、英国の出版社から発行予定の書

籍について、執筆予定者らがそれぞれ報告を

行った。(3月2日~3月3日)

第2研究班・ユニット2

第2研究班・ユニット3

ほか

22

LORC ジャーナル 23

図 書 紹 介LORCではさまざまな分野の研究員が活動に参加しています。ここではその一端をご紹介します。

 

ここ数年、若い世代の田園回帰にみられるように、地域を取り巻く環

境や価値観は大きく変わりつつある。地域は顔が見える範囲の社会とも

いえ、そこで仕事をし、糧を得て生活を営むという行為そのものが、個

人観や社会観を問い直すことにつながっているのではないだろうか。

 

田園回帰は、社会貢献・ソーシャル志向と深く結びつくテーマだが、

本書では個人の生き方に焦点を当てて、そのあたりの動機を探っている。

個人にとっては、地域や社会に貢献するよりも、自分がしたいことと地

域の課題解決の方向性をすり合わせていく、そうした社会のデザイン能

力が花開く場として地域が受け皿となっている。それは、与えられた仕

事をこなすのではなく、自分で仕事をつくっていくことにつながる。こ

れからは仕事の場、雇用の場がある地域よりも、なにかしら新たな仕事

をつくっていける土壌に、意識や志の高い人びとが引き寄せられていく

のではないだろうか。

 

先駆けとして実践して

いる人たちの生き方・働

き方から、若い世代が自

身の将来を考えるヒント

になれば幸いである。

松永桂子

(LORC研究員

大阪市立

大学創造都市研究科准教授)

ローカルに生きる

ソーシャルに働く

松永桂子・尾野寛明編 

農山漁村文化協会 

2016年

植田和弘

(LORC研究員

京都大学大学院経済学研究科教授)

テキストブック現代財政学

植田和弘・諸富徹編 

有斐閣

 

2016年

 

21世紀に進行した政治・経済・社会・地域の構造的変

化に注目しながら、現代財政の基本的特質と課題を明ら

かにする。グローバル経済下での国民国家の役割と課題

を、持続可能な地域発展と財政民主主義という視角から

展望する、最新のテキスト。

24

 

2016年4月の電力小売り全面自由化を経て、日本のエネル

ギー政策は大きな転換点にある。地域分散型エネルギーシステム

を日本の中心的エネルギーシステムにするためにはどうすればよ

いか。戦略的課題について整理し、解決方策を提示する。

地域分散型エネルギー・システム集中型からの

移行をどう進めるか

大島堅一・高橋洋編著 

植田和弘監

日本評論社 

2016年

 

辺野古訴訟とは、海兵隊の基地を沖縄県名護市辺野古地域に建設する

ために必要とされる当該海域の埋立てをめぐる沖縄県知事の権限行使(前

知事による埋立承認と現知事によるその取消処分)に関して、国(国土

交通大臣)が現知事を被告として提起した訴訟だ。

 

そもそも今回の埋立承認に際しては、沖縄県知事は日本に駐留する米

軍の約74%が集中している沖縄県に特有な地域の特性や、世界的にも貴

重な自然環境・生態系を有している埋立対象地の環境保全措置の適切さ

を重視しなければならない。しかし、前知事はこうした事情を無視ない

し軽視して埋立承認をした。埋立承認取消処分は、違法な判断をした知

事を選挙で交代させるといった民主的な政治過程と、現知事の下に設置

された第三者委員会における見直し作業に基づく公正な行政過程を経て、

沖縄県(県民)の自治権の発露として行われた。したがって、現知事に

よる埋立承認取消処分は、公有水面埋立法の趣旨を最も活かすものであ

るし、日本国憲法が保障する地方自治の本旨に照らして尊重に値するも

のだ。

 

本書は、沖縄県の弁護団を理論的に支援している行政法の研究者がこ

のような観点から著した論文集だ。辺野古訴訟は、前知事の判断を是と

する昨年(2016年)12月20日の最高裁判決によっていったんは終結し

た。しかし、右記の事柄の本

質に最高裁は向き合うことは

なかった。本書の理論的意義

はなおも失われない。

辺野古訴訟と法治主義

行政法学からの検証

紙野健二・本多滝夫編 

日本評論社 

2016年

本多滝夫

(LORC研究員 

龍谷大学法務

研究科

教授)

植田和弘

(LORC研究員

京都大学大学院経済学研究科教授)

LORC ジャーナル 地域協働 第 10 号

発行日2017 年 3 月 31 日

編集・発行龍谷大学地域公共人材・政策開発リサーチセンター(LORC)

〒 612-8577 京都市伏見区深草塚本町 67

発行人 / 白石 克孝編集人 / 立花 晃