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幕別ダム試験湛水の浸透流況について 帯広開発建設部 帯広農業事務所 ○南雲 人 加茂 榮哉 まえがき 幕別ダムは北海道中川郡幕別町に位置し、国営かんがい排水事業「幕別地区」の水源と して十勝川水系猿別川支流稲士別川に建設された農業用ダムである。試験湛水は2カ年の 予定で平成 15 3 月から開始したが、十勝沖地震の発生(平成 15 9 26 日),これ に 起 因 し た 災 害 復 旧 工 事 の 実 施 等 、予 想 外 の 対 応 を 迫 ら れ た 中 で 、ダ ム の 安 全 性 確 認 と い う試験湛水の目的を達成し平成 16 10 月に終了することができた。本報文では、ブラ ンケット工法を採用した本ダムにおける基盤内及び地山ブランケット背面の浸透流況の 変 化 に つ い て 、ま た 、間 隙 水 圧 が 残存した堤体内への浸透現象の 進行について報告する。 1.幕別ダムの概要 (1)施設概要 幕別ダムは、低固結度砂岩層上 に基礎処理工法としてブランケ ット工法を採用して築造された 堤高 26.9m の均一型フィルダム で、上流側を河床部からアバット 部地山斜面に渡り広範囲にアー スブランケットで被覆している ことが特徴である。(図-1,2) (2)基礎地盤の地質 幕別ダム基礎地盤は、第四期更 新世前期の浅海性堆積層 である長流 内層より成 る。本層は砂岩・泥岩互 層から形成され、ダムサ イトでの地層構成は図- 3に示すとおり、地層各 層が、下流方向かつ右岸 方向へ 5 °~ 10 °傾斜している。堤体の基礎は Ss3 層(層厚約 20m の砂岩層)が主体と なるが、本層中に出現する粗粒,中粒,細粒の各層相は連続性に乏しく、透水度との相関 性も薄い。地盤の透水特性上、稲士別川の削剥に伴う応力解放の影響が大きく、河床部の Hitoshi Nagumo Hideya Kamo Susumu Hayashi L.W.S.=EL65.50 上流ブランケット(Dg材) Ss 185,000 (ダム軸) 仮締切ダム 仮締切(Dg材) 捨土 堤敷ブランケット(Dg材) F.W.L.=EL.76.90 EL 68.00 EL 80.70 非越流部天端 保護層 Dg材 Dg材 立上りドレーン 最低床掘標高 EL 54.50 ダム天端 EL 81.40 EL 72.00 堤敷ドレーン EL 30.00 EL 40.00 EL 50.00 EL 60.00 EL 70.00 EL 80.00 EL 90.00 Md Ss Md Ss Md Ss 幕別ダム 図-2 堤体標準断面図( A~A 断面) 幕別ダム ランケット工 総貯水量 基礎地盤 型式 堤高 天端幅 堤頂長 総築堤量 設計洪水量 型式 越流堰長 越流水深 型式 設計洪水量 40m 3 /sec 1.4m 2r=2.9m円形トンネル 洪 水 吐 仮 排 水 路 幕別ダム諸元表 2,300,000m 3 砂岩・泥岩互層 均一型フィルダム 8.0m 335.0m 800,000m 3 150m 3 /sec 側水路式 45.0m 26.9m 図-1 幕別ダム 一般計画平面図

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Page 1: A~A 断面) - ceri.go.jpMd Ss 幕別ダム 堤体標準断面図及び縦断図 図-2 堤体標準断面図(堤体標準断面図 A~A断面) 幕別ダム A A 本 堤 ブランケット工

幕別ダム試験湛水の浸透流況について

帯広開発建設部 帯広農業事務所 ○南雲 人 加茂 榮哉

林 進

まえがき 幕別ダムは北海道中川郡幕別町に位置し、国営かんがい排水事業「幕別地区」の水源と

して十勝川水系猿別川支流稲士別川に建設された農業用ダムである。試験湛水は2カ年の

予定で平成 15 年 3 月から開始したが、十勝沖地震の発生(平成 15 年 9 月 26 日),これ

に起因した災害復旧工事の実施等、予想外の対応を迫られた中で、ダムの安全性確認とい

う試験湛水の目的を達成し平成 16 年 10 月に終了することができた。本報文では、ブラ

ンケット工法を採用した本ダムにおける基盤内及び地山ブランケット背面の浸透流況の

変化について、また、間隙水圧が

残存した堤体内への浸透現象の

進行について報告する。 1.幕別ダムの概要 (1)施設概要

幕別ダムは、低固結度砂岩層上

に基礎処理工法としてブランケ

ット工法を採用して築造された

堤高 26.9m の均一型フィルダム

で、上流側を河床部からアバット

部地山斜面に渡り広範囲にアー

スブランケットで被覆している

ことが特徴である。(図-1,2) (2)基礎地盤の地質

幕別ダム基礎地盤は、第四期更

新世前期の浅海性堆積層

である長流お さ る

枝し

内層より成

る。本層は砂岩・泥岩互

層から形成され、ダムサ

イトでの地層構成は図-

3に示すとおり、地層各

層が、下流方向かつ右岸

方向へ 5°~10°傾斜している。堤体の基礎は Ss3 層(層厚約 20m の砂岩層)が主体と

なるが、本層中に出現する粗粒,中粒,細粒の各層相は連続性に乏しく、透水度との相関

性も薄い。地盤の透水特性上、稲士別川の削剥に伴う応力解放の影響が大きく、河床部の

Hitoshi Nagumo ,Hideya Kamo ,Susumu Hayashi

L.W.S.=EL65.50

上流ブランケット(Dg材) Ss

185,000 (ダム軸)

仮締切ダム

仮締切(Dg材)

捨土

堤敷ブランケット(Dg材)

F.W.L.=EL.76.90

EL 68.00

EL 80.70非越流部天端

保護層

Dg材 Dg材

立上りドレーン

最低床掘標高EL 54.50

ダム天端 EL 81.40

EL 72.00

堤敷ドレーン

EL 30.00

EL 40.00

EL 50.00

EL 60.00

EL 70.00

EL 80.00

EL 90.00

Md

Ss

Md

Ss

Md

Ss

幕別ダム 堤体標準断面図及び縦断図

堤体標準断面図図-2 堤体標準断面図(A~A 断面)

幕別ダム

本 堤

ブランケット工

総貯水量

基礎地盤

型式堤高

天端幅

堤頂長

総築堤量

設計洪水量

型式越流堰長越流水深

型式

設計洪水量 40m3/sec

1.4m

2r=2.9m円形トンネル

洪 水 吐

仮 排 水 路

幕別ダム諸元表

2,300,000m3

砂岩・泥岩互層堤 体均一型フィルダム

29.6m8.0m

335.0m

800,000m3

150m3/sec

側水路式45.0m

26.9m

図-1 幕別ダム 一般計画平面図

Page 2: A~A 断面) - ceri.go.jpMd Ss 幕別ダム 堤体標準断面図及び縦断図 図-2 堤体標準断面図(堤体標準断面図 A~A断面) 幕別ダム A A 本 堤 ブランケット工

Ss3 層は新鮮ではあるが k=1.3×10-3 cm/sec(平均)の高透水性地盤となっている(図-

4参照)。

(3)ブランケット工及び堤体の設計 ブランケット工の規模は、基礎地盤(低固結度砂岩)

のパイピングに対する安全性を確保できるように決定した。

パイピングに対する安全性は動水勾配により評価するもの

とし、テルツアギーの理論限界動水勾配 ic=0.99 に対し安

全率 5 を見込んで設計値を i=0.20 に設定した。また、有限

要素法による浸透流解析を行い、ブランケット部及び堤体

不透水性部の全体長を 195m とした。なお、左右岸の両ア

バット部に対しては付帯施設までを地山ブランケットで被

覆し補強するものとし、左岸側については仮排水トンネル

入り口部を覆う位置ま

で、右岸側については

洪水吐基盤地山を覆う

位置まで延長した。 2.幕別ダム試験湛水

(1)試験湛水の概要 幕別ダムは基本的に

融雪水を貯留するダム

であり、試験湛水は2

過程・2カ年にわたる

計画とした。計画~実

ブランケット延長 195m

195m

仮排水トンネル

洪水吐

延長範囲

ダム軸

ダム軸

図-5 ブランケット工規模

8 0

60.0

61.0

62.0

63.0

64.0

65.0

66.0

67.0

68.0

69.0

70.0

71.0

72.0

73.0

74.0

75.0

76.0

77.0

78.0

2003/3/1

2003/5/1

2003/7/1

2003/9/1

2003/11/1

2004/1/1

2004/3/1

2004/5/1

2004/7/1

2004/9/1

貯水

位(EL m

)

0

20

40

60

80

100

120

日雨

量(m

m)

0

100

200

300

400

浸透

水量

(L/m

in)

図-6 幕別ダム試験湛水工程図

WL.68.

FWL.76.9

貯留制限解除

第2過程貯留開始

計画貯水位

実績貯水位

満水位保持・12 日

試 験 湛 水 終 了被災部調査・仮復旧

WL.67.4

迎洪水位 WL.69.9

中間水位WL.71.0

LWL.65.5

10 号台風

2003 年十勝沖地震

WL.68.7

ブランケット延長 195m

195

仮排水トンネル

洪水吐

延長範囲

ダム軸

ダム軸

上流 下流

図-5 ブランケット工範

図-3 幕別ダム ダム軸地質断面図

S s 3

S s 1

S s 5

S s 7

S s 9

S s 3

S s 1S s 3

S s 5

S s 7

M d 2

M d 6

M d 2

M d 6

M d 8

M d

M d 0

T f 4 T f 4

Tr 1

Ss;砂岩 Tf; 凝灰質泥岩 Md ;泥岩

凡例

k=1.3×10- 3 cm/sec(平均 )

1×10- 4≦ k < 1×10- 3 cm/s

1 × 10 - 4 ≦ k < 1 × 10 - 3

1×10- 5≦ k < 1×10- 4 cm/s

図-4 幕別ダム ダム軸透水係数分布図

1×10- 4≦ k< 1×10- 3 cm/s

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績の対比を図 -6 示す。最終的には平成 16 年 10 月 4 日に試験湛水を終了することができ

たが、2003 年十勝沖地震被災箇所確認のため WL.67.4m へ貯水位を降下させ、第2過程

貯留開始時期が1ヶ月遅れた。これにより融雪期の貯留で満水位に到達することができず、

工程的に約 4 ヶ月遅れの満水位到達となった。 (2)基盤内の浸透流況 (a)試験湛水開始前の状況 本ダムは基礎処理工法としてブランケット工法を採用し、河床部及びアバット部地山斜

面を不透水性盛土により被覆していることから、地山地下水の浸出を塞ぐこととなり、試

験湛水前において地山地下水位の上昇及びブランケット背面での水頭上昇が生じた。また、

下記に示す事項の影響により、左岸地山 Ss3 層から上流池敷に張り出す被圧水頭が発達し

た。 [盛土工事前の被圧地下水の状況について ]

本ダムサイトでは、砂岩・泥岩互層の地質構造にある中で、不透水性の泥岩層により上

下を遮断された各砂岩層中の地下水はそれぞれ独立したものとなっており、右岸 Ss3 層内

については図-7のような右岸地山奥での地層の曲がり(撓曲構造)が原因となって被圧

地下水が発生している。

[盛土工事に伴うディープウェル稼働について ] 本ダムでは、平成9年から、河床部盛土工事のドライワーク確保を目的として、削孔経

600mm,内挿管経 400mm のディープウェル計 37 孔を上下流河床部及び左右岸アバット

部に設置し、Ss3 層内地下水位を低下させた。また、ディープウェルは盛立の進行ととも

に河床部から順次閉塞処理を行っていったが、最終孔の処理は試験湛水開始直前の平成

15 年 2 月中旬となったため、平成 15 年 3 月からの試験湛水の開始とともに、ディープウ

ェルの稼働により低下していた地下水位が回復した。 [盛土工事完了に伴う浸透流況の変化 ]

ブランケットによる基礎地盤内の浸透流抑制は浸透路長を長く与えることにより行わ

れる。その結果、河床部及びアバット部地山斜面は不透水性盛土により被覆されることに

なり、地山地下水にとっては浸出口を塞がれることになるので、地山内での地下水位上昇,

ブランケット背面での水頭上昇が生じることになる。

ディープウェル稼働により低下していた地下水位の回復現象、右岸 Ss3 層内被圧水頭の

上昇現象、低透水度帯の存在及びブランケットの被覆効果による上流堤敷への「被圧水頭

図-7 右岸 Ss3 層の被圧地下水と地質構造(ダムサイト左右岸方向)

被圧地下水 自由地下水

不飽和帯

Ss3

撓曲構造

ダムサイト稲士別川

右岸左岸

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の張り出し現象」が進展し、試験湛

水開始前の基盤内流況は図-8の

とおりとなった。堤敷部では、右岸

Ss3 層からの流入地下水が上下流

方向に流下し、左岸地山内にまで及

んでいる。又、低透水度帯の位置に

ほぼ重なるようにポテンシャルコ

ンター密集部が出現しており、この

時点では、右岸 Ss3 層内の水頭はダ

ム工事着工時点よりも高くなって

いる。

(b)貯水に伴う基盤内流況の変化 満水時の基盤内流況については

次の特徴が挙げられる。(図-9) [右岸地山内について ] 貯水位の上昇とともに右岸 Ss3

層内水頭も上昇した。貯水池側から

の浸透ポテンシャルの上昇が右岸

からの張り出し水頭を上回ったこ

とにより、Ss3 層内水頭の張り出し

は地山側に後退したが、地山内では

貯水池からの浸透ポテンシャルと

貯水池側に向かう Ss3 層内水頭の

間に対峙関係が出現した。この関係

は満水位状態となっても保たれた

ことから、右岸側では貯留水が迂回

浸透となってブランケット背面を

流下する状況は発生していない。 [河床部について ] 貯水位の上昇とともにポテンシ

ャルコンター密集部が発達した。こ

のため下流堤敷での水頭上昇高が

低くなっている。 [左岸地山内について ] 河床部左岸上流側で顕著なポテ

ンシャルコンター密集現象が生じ

たために、左岸地山内では地下水位

上昇が非常に緩やかなものとなっ図-9 基盤面ポテンシャルコンター図(満水位保持WL.76.90m・04/8/31)

④ポテンシャルコンター密集度が発達

⑤左岸地山内地下水上昇は小さい

③堤敷部の水頭上昇高が小さい

70

6560

7

55

55

➀地山内水頭が上昇。浸透ポテンシャル

との間で対峙関係を保つ。

②堤敷部の水頭が上昇し水頭の張り出しが後退

図-8.基盤面ポテンシャルコンター図(試験開始時・03/3/18)

④ほとんど流れが存在しない

①Ss3 層内被圧水頭の上昇

55

60

65 5

②被圧水頭の張り出し

③ポテンシャルコンター密集部の出現

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た。この結果、ブランケット背面を流下する迂回浸透は小規模なものとなり、仮排水トン

ネル沿いの流況も動水勾配の小さな緩やかなものとなっている。 *落水後の状況

落水によりポテンシャルコンター密集部は消滅した。また、下流河床部及び地山内で顕著な水

頭残存現象が生じている。

(c)基盤内流況に対する安全性評価 流況監視上の基準値を i=0.20 と設定したが、試験湛水開始後、低透水度帯周辺のポテ

ンシャルコンター密集部でこれを上回る状況が出現した。動水勾配の最大値は河床部右岸

側 NO.15 断面付近であり、 i=0.42 となった

が(図-10 参照)、この事態に対し以下の点

から安全性上の問題はないと判断した。 ①浸透水量観測結果が安定しており、異常が

見られない。 ②堤敷ドレーン下層が基盤 Ss3 層に対する

フィルター機能を有している。 ③Ss3 層のパイピング試験結果で、限界動水

勾配 ic=8 を確認している。 ④設計動水勾配 i=0.20 は安全率5を見込ん

でいる。 (3)堤体内の浸透状況

一般にフィルダム堤体中のコアゾーンでは、盛土締固め時に間隙水圧が発生し盛立完了

後も残存する。本ダムも同様に堤体全体が均一型の土質材料により構成されているので、

盛立後も大きな間隙水圧が残存し、試験湛水開始時点における上流 Dg ゾーン中央部の残

存間隙水圧は約 13Mpa (13t/m2)(上載土中高の 40%前後に相当)に達した(図-11 参照)。

この間隙水圧をポテンシャルで表現すると図-12 のとおりとなる。

EL63.0

最密集部の動水勾配 i= (69.0-63.0)/14.2

=0.42

14.2m

EL.69.0

ダム軸

NO.15

図-10 最大動水勾配発生箇所

図-12 試験湛水開始時(03/3/18)堤体内ポテンシャルコンター図・NO.15 断面

①上流側堤体内深部には 13Mpa (13t/m2)前後を核として間隙水圧が同心円状に残存している。 ②基盤付近では、基盤内被圧水頭に伴う間隙水圧 8Mpa (8t/m2)と堤体内間隙水圧 8Mpa が平衡状態を保っている。

図-11 試験湛水開始時(03/3/18)堤体内間隙水圧コンター図・NO.15 断面

右岸地山からの張り出し水頭

(ポテンシャル値=計器標高+間隙水圧)

上流側では法先方向に向かい消散

右岸 Ss3 層からの張り出し水頭

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間隙水圧の消散方向は堤体上流側では図-12 に示したように法先方向となる。間隙水

圧の消散をひとつの「圧の流れ」と考えれば、堤体上流側でのこのような圧の流れは、堤

体中への浸透水の浸透ポテンシャルに対抗し浸透を阻む働きをすることになる。 図-15 は堤体内設置間隙水圧計の経時変化図であるが、満水位時においても満水位よ

りも高い水頭値を保っている計器、水位一定期に消散傾向を保つ計器が見られた。これら

の事から、上記の「残存間隙水圧が浸透水の浸透を阻む」という考え方で挙動を評価した。

満水位における堤体内の間隙水圧分布状況は図-13 のとおりとなるが、同心円状の残存

間隙水圧が堤体内で浸透ポテンシャルに対抗する状態となっている。これをポテンシャル

表現すると図-14 ようになり、満水位時においても飽和領域は堤体上流側の部分的な範

囲にとどまるとともに、堤体中央部では浸透現象には関係なく残存間隙水圧消散現象が進

行している。

図-13 満水位 WL.76.90 保持時 (04/8/31)堤体内間隙水圧コンター図・No.15 断面

①貯水の影響で P38,P40 の間隙水圧が上昇している。 ②上流側堤体内深部の間隙水圧残存状況に大きな変化はない。

③下流側の残存間隙水圧は当初の 50%以下まで消散した。

EL.75.0 のポテンシャル線が深くまで入り込んだ。

残存間隙水圧と浸透ポテンシャルが平衡状態となり

浸潤線がほぼ形成された。

飽和化進行中 消散傾向を持続

①P38 周辺はポテンシャルコンターがほぼ等間隔で入り、浸透領域下に入ったものと見られる。

②P40 は顕著な上昇を続け貯水位 EL.76.9m に迫った (図- 14 参照 )。上流斜面方向からの浸透

ポテンシャル進行と残存間隙水圧のポテンシャルが EL.76.9 を境に等ポテンシャルになる挙

動を反映したものと考えられる。

図-14 満水位 WL.76.90 保持時 (04/8/31)堤体内ポテンシャルコンター図・NO.15 断面

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(4)浸透水量の挙動

本ダムでは9系統に分けて透水量観測を行っている(図 -16 参照)。

浸透水量の変化状況を全浸透水量について図-17 に示したが、基本

的には貯水位の変化に追随したものとなっている。また、満水時の

全浸透水量 300L/min 弱は、設計時の浸透流解析に基づく推定量

700L/min の半分以下であったが、これには次のようなことが原因に

なっているものと考えられる。 ①低透水度帯の影響でポテンシャルコンター密集部が生じたた

めに下流堤敷での水頭上昇が抑えられたこと。 ②堤体を透過する浸透水が存在しないこと。(立上りドレーン下

端部を担当する1~3ブロックは 1L/min 以下の観測値で、試

験湛水期間中ほとんど変化していない。) なお、浸透水量挙動においては次のような点が特徴的となっている。 ①降雨や融雪の影響がほとんどあらわれていない。 (堤体が均一型であり堤体を透過する下方浸透が生じないこと、地山内において砂

岩・泥岩互層中の泥岩が下方浸透を阻むために地下水変動が生じないこと、がその

原因となっている。)

下流捨土

① ④

ダム軸 図-16 浸透水量観測ブロック図

DL40.0

No.15

LC

CL

P-25

P-26

P-27

P-28

P-29

P-30

P-31

P-32 P-36P-34

P-35 P-37P-33

E-6

E-5

E-4

Pd-8

Pd-5 Pd-6 Pd-7

S-9

S-10S-11

S-12

P-38 P-39

P-40

P-41

P-42 P-43

図-15 堤体内設置間隙水圧計の経時変化挙動

61.0

63.0

65.0

67.0

69.0

71.0

73.0

75.0

77.0

79.0

81.0

2003/02/01

2003/02/21

2003/03/13

2003/04/02

2003/04/22

2003/05/12

2003/06/01

2003/06/21

2003/07/11

2003/07/31

2003/08/20

2003/09/09

2003/09/29

2003/10/19

2003/11/08

2003/11/28

2003/12/18

2004/01/07

2004/01/27

2004/02/16

2004/03/07

2004/03/27

2004/04/16

2004/05/06

2004/05/26

2004/06/15

2004/07/05

2004/07/25

2004/08/14

2004/09/03

2004/09/23

2004/10/13

61.0

63.0

65.0

67.0

69.0

71.0

73.0

75.0

77.0

79.0

81.0貯水位 P-38

P-39 P-40

P-41 P-42

P-43

貯水

位(EL.m)

間隙

水圧

標高

(EL

m)

十勝沖地震による間隙水圧上昇 貯水位一定期に上昇。貯水の影

響で飽和化が進行。

貯留水が荷重として 作用したことによる上昇

試験湛水中一貫して消散傾向。浸透水の影響は 受けていない。P42 計器水頭>貯水位

貯留水が荷重として作用 したことによる上昇

満水位保持 12 日

水位一定時に消散。浸透水の影響は

受けていない。計器水頭>貯水位

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②気圧変動の影響による変動幅が大きい。 (気圧変動との相関性は低く不規則であるが、概ね気圧が低下すると浸透水量が増加

する。地山地下水位では、水位計で計測しているものが低気圧時に孔内水位が上昇

し、間隙水圧計で計測しているものについては逆に高気圧時に上昇する。低気圧時

の浸透水量増とその不規則性は、ドレーン集水管周辺の堤敷ドレーン内水位の上昇

及び多孔質で軟質な基盤内水位の変化が複合的に現れるためではないかと推定して

いる。) ③落水後の浸透水量が貯水位と比例的に減少しない。 貯水位上昇期 WL.71.0m 到達時の全体浸透水量=約 180L/min 貯水位下降期 WL.71.0m 到達時の全体浸透水量=約 270L/min であり(図-17参照)、基盤内,地山内での水頭残存現象の影響が顕著に現れたも

のと考えられる。

あとがき

幕別ダムは試験湛水終了後、平成 17 年 3 月に完成検査に合格し、平成 17 年4月から供

用を開始した。基盤内流況、堤体内の流況ともに、試験湛水時の過程に追随した挙動を示

すとともに、浸透水量は安定した挙動を示している。 透水性基礎地盤上にブランケット工法を採用して築造したダムとして浸透流況及び浸

透水量挙動が安定していることは、工法の有効性及び設計としての工法選択の妥当性を示

しているものと考えられる。 最後に幕別ダムの設計施工に当たり多大なるご指導をいただきましたダム技術検討委

員会の先生方をはじめ関係各位に対しこの場を借りて深く感謝いたします。

図-17 試験湛水時浸透水量経時変化図

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時間雨量

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980

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気圧

雨量(mm/hr)

気温(℃)

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全漏水量

貯水位

浸透

水量

(L/min)

貯水位(EL.m)